第51話 シンジが再会する


「うっ……」


 暗い暗い部屋の中。


 一人の少年が目を覚ました。


「ここは?」


 少年は起き上がり、体を動かそうとするが、自身の体が、とても頑丈な鎖で拘束されている事を知る。

 何とか鎖を外そうと、体を動かしてみるが外れそうにない。


 少年は、諦めて、そのまま仰向けに倒れた。



「……体育館、か」


 暗さに目が慣れてきた頃、少年に見覚えのあるモノが見え始める。


 バスケットのゴール。高い天井。


 ここは、彼が通っている学校の体育館のようだ。


「……なんでこんな所に」


 少年は、自身の身に起きた出来事を思い出しながら体を横に向ける。


 世界が変わり、やけに強い猫耳の少年と戦い学校から逃げ出そうとして……


「……なんだよコレ」


 少年……シンジは、自分の目の前に広がる光景を見て絶句する。

 彼が見たモノは体をロープなどで拘束されている死鬼たち。


 しかも、半端な数ではない。


 100、200、400、もっと、それ以上。

 1000体近くの死鬼たちが、広い体育館に、積み重なるように転がされていた。


(……コレ、アイツらが……貝間さんがしたのか? この人数を?)


 自分がどれだけ気を失っていたか分からないが、1000体近くの、暴れる人間を拘束して、閉じ込めるなど一日二日で出来る作業では無いはずだ。

 少なくとも、数週間はかかるだろう。

 100人いれば、出来るのだろうか。


(……いや、貝間さんなら出来るのか?)


 貝間 真央。

 レベルが上がり、身体能力が常人の2倍以上になったシンジに追いつき、気絶させ、ここに閉じ込めたと思われる少女。


シンジは、自分が気を失う直前に見た光景を思い出す。


(一見、偶然事故が起きたようにしてあったけど、校門に並んでいた自動車は異常だった。人が通れそうな隙間が完全にふさがっていたからな。綺麗なぐらい。アレは人の手で作られた偶然だ)


 そして、その前の光景。


(外にいる死鬼も、やけに少なかった。多分100人もいない。ここに連れて来られたのか? もし、仮に、貝間さんが、俺の『超内弁慶』と同じように、何らかの技能を持っているなら……)


 1000人の死鬼を、体育館に拘束することも可能なのだろうか。

 そうなると、マオの技能は


(運搬系の能力? 大量に入るアイテムボックスみたいな? いや、それだと、俺が気絶させられた事の説明が出来ない。急に目の前が暗くなって、ここにいたからな。まぁ、運搬系の技能と、催眠系の魔法や技能を持っている可能性もあるけど……)


 シンジは、マオの力について考え始める。

 何も出来ず、一瞬で気絶させられ、悔しい気持ちもあった。


 マオの力の事を考えるのに、シンジは一生懸命だった。

 集中していた。


 だから、シンジは背後に迫っている人影に気が付かない。


「隙アリ……ニャ!」


 聞き覚えのある声。


 シンジは、とっさに声の聞こえた方向を見ようとするが……


「ぐげ!?」


 背中に強い衝撃を受けて、うつ伏せにさせられるシンジ。


「お前……」


「よっ! 元気そうだな」


 その声は、とても聞き覚えのある声だった。

 世界が変わる前は、毎日のように聞いていた声だから。

 死んだとは思っていなかったが、まだ学校にいるとも思っていなかった。

 アイツなら、もっと要領よく切り抜けていると思っていたから。


「コタロウ……!」


「久しぶりだな!」


 シンジ首を何とか動かして、背中に乗っている人物を見る。


 そこには、シンジの親友、山田 小太郎(ヤマダ コタロウ)が、ネズミを捕まえた猫のようにシンジの背中にのしかかっていた。

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