第23話 セイがノーブラ

(なんて事を言ったのだろう……)


 セイは、シャワーを浴びながら先ほどの自身の態度を猛省していた。


(あの人は、私を助けてくれただけだ。なのに人殺しなんて……)


 気が動転していたのは確かだ。

 急に道場の後輩に襲われて死にかけた。

 意識を取り戻したと思ったら、目の前で襲ってきた後輩が粉々になって死んだ。

 あのとき様々な恐怖がセイの心の中で暴れていた。


 だからといって命の恩人に取っていい態度では無かった。

 

 言っていい言葉ではなかった。


 それなのに急にセイが苦しんだら彼はすぐさま助けてくれた。


(…………よし!)



 今度は自分が彼を助ける番だ。


 セイはそう心に決めシャワーの蛇口を閉めた。




「お、出てきたか」


 女子更衣室から女子生徒が出てきた。

 さすがに血塗れの制服は着られなかったのだろう。

 彼女は体操服を着ていた。

 髪はゴムで一つにまとめられている。


(……着痩せするタイプだったのか)


 シンジはおもわず助けた女子生徒の胸元を見る。

 そこは体操服の布地を押しどけ、これでもかと自己主張していた。


(……こりゃあ、カフェにいる奴らでもトップクラスの大きさだな。というか、足もすげぇ……!)


 シンジは目線を下げ、女子生徒の足を見る。


 何か、スポーツをしているのだろう。


 すらりとしながらもつやつやとした健康的な太股とふくらはぎは柔らかさとしなやかさの黄金律で出来ていた。


(顔も、ちょっとキツそうな顔だけど、美人だし……というか、あれもしかして)


 シンジは再び女子生徒の胸元を見る。


 そこは、やはり自己主張しているのだがよく見るとその自己主張が2段階に分かれている。


 山の上にさらに、旗。


(……ま さ か の ノ ー ブ ラ ! マジで? ああ、でもそうか。ブラジャーは多分血まみれになったし、下着の代えがないのか。でも、ノ ー ブ ラ !? 体操服で!? あっ、やば)


 シンジは鼻からあふれ出そうになるリビドーを必死に押さえる。


(やべぇ……これすげぇ……巨乳美脚の美少女が風呂上がりにノーブラで体操服着て、目の前にいるって、どんなご褒美ですか)


 シンジは上を向く。


(……まぁ、そんな美少女に、嫌われているわけですが)


『人殺し』


 さきほど言われた言葉が再びシンジの頭の中で再生される。


(なるべく助けてあげたいけど、恨まれ、嫌われているならしょうがない。どうしても俺の事が許せないってなら)

 

 シンジは顔を下げる。

 興奮は収まっていた。


(これをあげて、バイバイ。だな)


 シンジは、ポケットに入れているナイフを触る。

 ミスリルの短剣。


 ガチャで当てた武器。

 レアの部類のガチャ武器だがシンジは今までこれを使ってこなかった。

 双剣もあるし、これからも使わないだろう。


 護身用にはちょうどいいし、仮にコレで女子生徒が恨みからシンジを襲ってきても返り討ちに出来る自信はある。


 男子生徒の詳細を聞いて、これからの話をして、ミスリルの短剣をあげて別れよう。

 シンジはそう決めていた。


「あの……」


 女子生徒はうつむきながら、シンジに話しかけてきた。


「私、常春 清と言います。先ほどは……その! すみませんでした!」


 女子生徒、セイが頭を下げる。


「……へ?」


「助けていただいたのに、人殺しなんて! 本当に申し訳ありませんでした!」


 セイが何度も頭を下げる。


(……なんだ? この展開。というか、頭を下げるから、体操服の間から、谷間が見えまくっているんだけど。こちらこそすみません。ありがとうございます)


 予想外の展開にシンジは頭をひねりながら、とりあえずセイの谷間を見た。

 だが、このあとセイは、シンジにとってさらに予想外の発言をする。


「私、ちゃんと証言しますから!」


 セイの瞳は力強く輝いていた。


「……はぁ?」


「ちゃんと、先輩は正当防衛だったって、裁判で証言しますから。大丈夫です。私のお母さんは、弁護士なんです! 『最適の弁護士』なんて呼ばれている、とてもすごい弁護士ですから! 心配しないでください!」


 セイの瞳の輝きがキラキラと増していく。


(…………えーっと)


「えっと、先輩って俺の事かな?」


「はい。3年生の方ですよね? 校章から判断しましたけど……そういえば、お名前は?」


「え? ああ、明星 真司だけど」


「じゃあ、メイセイ先輩ですね。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく……じゃなくて、なんで俺が裁判に出ることになっているの?」


「え?……それは……その、さすがに、殺人を犯したとなっては、いくら正当防衛でもその事を裁判で証明しないといけないと思います……」


 セイは、本当に申し訳なさそうに言った。


「…………なるほど、ね」


 シンジは思わず苦笑する。


(……裁判、ねぇ。こんな状況で、やる余裕があるのかな?)


 あったとしたらシンジはどれほどの罪なのだろうか。

 そもそも、死鬼は生者なのか死者なのか。

 現在の法律が現状でどれほど成立するのか。


「……まぁ、裁判があったら、よろしく」


「はい!」


 セイはヒマワリのような、明るい笑顔を見せる。

 その笑顔はシンジの気を緩ませた。


(……かわいい)


 このとき、シンジのなかにセイと別行動をするという選択指が無くなった。

 完全に、美少女と行動できることに舞い上がっていた。

 だからシンジは気づいていない。

 セイのような少女と一緒に行動するということがどのような問題を起こすのか。


 シンジはよく考えるべきだったのだ。






 

 敵は、死鬼ではないのだから。

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