第43話

 その返事に、不破が小さくうなずく。いちいちマイナスの点をあげつらっている様な気分でもあったが、その気になってから駄目出しするよりはましだろう――そんなことを考えながら、先を続ける。

「識字率はそれほど高くないから、会話と読み書きを完全にこなせる様になったら代筆業を考えるのもいいかもしれん。商会の事務なんかも口があるだろう――ひとつふたつ、つきあいのある商会はある。燃料や材木を市井に供給するための林業も、人手が足りてない――技術指導で出向いた先で薪を買った林業の業者が、人手が足りないとぼやいてた。燃料に関しては都市部には完全に薪割りまで済ませたものを供給するから、作業量がかなり多い。ただ金にはなる様だ」

「あんたみたいな猟師とかは?」 不破の質問に、ライはかぶりを振った。

位置評定ナビゲーションが正確に出来ないなら、考えないほうがいい――ここにいるのがおまえじゃなく、弓の技術で俺と互角の俺やおまえの弟だったとしても、俺は射撃による狩猟は薦めない。まあ独立して猟師をするんじゃなく相棒として一緒に仕事をするなら、俺は歓迎するがな――おまえの弟でも俺の弟でも、位置評定ナビゲーションはともかく射撃の技術なら俺と互角だから。ただ罠猟をきちんと憶えたいなら、教えてやるのはかまわない」

「罠猟か――ゴールデンウィークごろに、京都の罠猟師の話がテレビでやってたな」

「そうか」 不破の返事に、ライは軽くうなずいた。ゴールデンウィークならライもまだ日本で不破と同じ時間を過ごしていたはずだが、さっぱり憶えが無い。北海道では放映していなかったのかもしれない――狩猟の技術だったら役に立つから、テレビで放映していたなら観ていてもおかしくないはずだが。

 正確に言うと、ライの技術は免許を取って正式に習得した罠猟のものではない――父親が銃、祖父が罠を用いた狩猟を行っていたのでそれを横で見ていたのが下敷きになっているのは確かだが、基本的には対人用や対獣用の括り罠スネアをアレンジしたものだ。

「ところで、なんで位置評定ナビゲーションが必要なんだ?」 という質問に、ライはあらためて彼に視線を投げた。

「この樹海もそうだが、アーランドの森は少々広すぎてな――実のところ、この森の規模はたいしたことは無い。この森は空がほとんど見えないから迷いやすいが、実際にはそれほど極端に広いわけじゃない――といってもあの高台から直近の街道まで、数十キロあるがな。この国は森林面積が国土全体の半分以上を占めてるが、北へ行くほど普通の森に近くなる――代わりと言ったらなんだが森林面積はそっちのほうがずっと広くてな、広すぎて迷子になったら出られないのさ。方位磁石があればどうにかなるんだが」 方位磁石コンパスが存在しないこともあって一度入って遭難すると出られなくなることも多い、だから射撃の技量にかかわり無く自力で脱出する能力の無い者には弓猟は薦められない――とライは続けた。

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