第23話

 叛体制派が人質を再度手に入れるためにリーシャ・エルフィを探すとしたら、アーランドの大規模な軍施設が中心になる――つまり今ライたちがいる王家直轄領とその周囲に存在する封建貴族領の境界線に置かれた関所とそこに駐屯する領境警備隊ボーダーガード、それにそれらの領境警備隊ボーダーガードを隷下に置き近隣の国軍の駐屯地でもっとも大規模なレンスタグラ砦。

 関所であればこの近くだと王家直轄領とカーリー伯爵領の境界線を警備するルガイ街道の関所か、グカラン男爵領との間のマモン街道の関所が一番近いだろう。街道に点在する宿場町には衛兵の行動の拠点及び王侯貴族の移動時の宿泊施設を兼ねた施設が存在するが、人目につきすぎると考えて除外する可能性が高い。

「――少なくとも、俺なら張り込まないな。あとは近隣の村の衛兵所だが――なにしろ常駐人員がひとりだからな、彼女を奪還した兵士たちを加えたとしても兵の重厚を欠いて防御が薄い。さらに、衛兵の駐在施設が小さすぎて王女以下兵士たち全員を満足に収容出来ない――居住空間に食糧の調達、存在の秘匿、問題が多すぎるからそこに彼女を置いておく可能性は低いと判断するだろうな」

 結果、関所や砦のほうに重点的に探りを入れる可能性のほうが高い――ライはそう続けてから、なぜか驚愕の表情でこちらを凝視しているガラに気づいて盛大に嘆息した。ふたつに割れた薪を適当に脇に投げ棄てて、

「ガラ――おまえ、俺がえぐいことするためだけに軍用の矢を用意する様に頼んだと思ってただろう」

「はい」

「即答するんじゃねえよ――返事する前にちょっとくらい躊躇え」 一瞬の躊躇も無くうなずくガラに深々と溜め息をつくと、ライは気を取り直して先を続けた。最初にふたつに割れた薪のもう一方を手に取ってナイフの刃を喰い込ませながら、

「この近くだったらその三ヶ所――まあほかにあったとしても、彼女がそれらのどれかにいると目星をつけるんじゃないかな。漂流者の自宅に匿われてるとは想像しないだろう」

「つまり、明日になったらうちに移動するの?」 メルヴィアがそう確認してくる――というのは言うまでもなく、ライとふたりで暮らしている家だからだ。

「ああ。街道は通らずに移動する――ひとり早馬で出てもらって、王都に状況を知らせて迎えを出させる。それでリーシャ・エルフィと漂流者の身柄を引き渡せば、俺たちの仕事は終わりだ――事の顛末の伝達は、両国間でやってもらおう」 そう答えて、ライは手にしたナイフをいったんシースに戻した――ユーコン・ストーヴは炉が奥まった場所にあるので、薪の並び方を整えて火を熾すのには向いていない。

 ただ、すでに燃えている松明があるので細々した火熾しの作業は必要無い――ライは竹のスタンドに差し込んでいた松明を手に取って燃焼部を奥にしてユーコン・ストーヴの炉の中に寝かせると、だいぶ小さくなった炎の上に細く割った焚きつけを投げ入れる様にして積み上げていった。

 松明の燃焼部はもうあまり残っていない――使いきってもかまわないだろう。さらに杉や松の仲間の木で作った薪を細く割って作った薪を数本煙突の上から落とし、ユーコン・ストーヴの横に置いた木箱に手を伸ばす。

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