第21話
「否、食べ物は無いのかって聞きたかったんだけど」 学生のひとりの返事に、かぶりを振る。
「ここは俺の宿営地のひとつだ――保存食のたぐいは一応あるが、たいした量じゃない。それでいいなら出してやるが」
「なにがあるんだ?」
「加工肉の燻製とチーズとドライフルーツがいくつか――と言ってもこんな大人数なんぞ想定してないから、ひとりに行き渡る量はたいしたことないが」
「あの樽は?」
「中身は塩漬けの野菜だ。そのまま喰ったら体を壊すぞ――塩分が多すぎる」
「塩漬け?」 首をかしげる少年に、ライは溜め息をついた。なるほど、これが認識の齟齬か。
「レトルトかなんかじゃないのか?」
「あいにくこっちにそんな便利な代物は無い」 そもそも樽で運んでいる時点で、望み薄だとわかりそうなものだが――という本音は口に出さず、ライは先を続けた。
「ここには現代日本にある様な便利な品物はなにも無い。電気という概念そのものが存在しない――レトルトどころか缶詰、瓶詰も安定して作れるほどの技術力は無い。酷な様だが、認識を改めたほうがいい」
「嘘だろ……」 学生のひとりがそうつぶやく。
「ちょっと待ってください、じゃあ私たちはこれからどうなるんです?」
教師の口にしたその質問に、ライはかぶりを振った。
「俺にはどうしようもない――とりあえず、この国の王に引き渡すつもりでいる。あとは俺にはわからない――あるのかどうかもわからない帰る方法を探すか、ここで生きていく算段をつけるか、いずれにせよ俺にはどうしようもないことだ。あんたらの面倒を見てやれるほどの余裕も無いしな」
ライはそう答えてから、
「話は終わりだ――この近隣には、肉食の
ライはそう告げてきびすを返すと、ふたたび機体のほうへと歩き出した。
機体のそばまで近づいていくと、古参兵ふたりが樽を破壊しているところだった――不要な樽を破壊して焼却し、焼却出来ない
機体のそばにふたつ並べられた樽の上に、はずされた丸蓋が載せられている。軽く持ち上げてみると、中には水が満たされていて塩漬けの野菜が沈められているのがわかった。
空の樽を破壊する作業に従事していた兵士のひとりがライに気づいて、足元に放り出した樽の締め鉄具に視線を向ける。
「箍はどうするね」
「ここを離れるときに持っていく。焼却出来ないからな」
機体の中から話し声が聞こえてきたので昇降口から機内に入ると、ベッドに並んで腰を下ろしたメルヴィアとリーシャ・エルフィが笑いながら話をしているところだった。倉庫代わりにしている操縦室から持ち出したのだろう、毛皮を膝にかけている。ユーコン・ストーヴの近くにはガラと一緒に袋役にした
メルヴィアはいつも通りの格好だが、リーシャ・エルフィは先ほど渡したぶかぶかの服を着ている――ライとの体格差のために致し方無いが脚絆の股下が長すぎるのだろう、どうにも毛皮の端から覗く裾の扱いに困っている様子だった。
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