第20話
「はい」 リーシャ・エルフィの返事を背中に、ライは後ろ手に扉を閉めて機体側面の昇降扉から機外へと降りた。リーシャ・エルフィの着替えの介助に、メルヴィアを呼んでこなければならないだろう。
「ガラ! こっちに来てくれ」 大声で呼ばわると、ややあってガラがこちらに近づいてきた。
「はい」
「さっき、空の水樽を持ってきてくれてたろう――すまないが、その水樽に水を汲んできてくれないか」 ガラが小さくうなずいて、
「はい。ほかには?」
「何人かで分担して――食糧樽の中にある塩漬けの野菜を水に浸けて塩を抜くのと、水樽は飲料水にしよう。あとは樽の中身は全部取り出して、空になった樽が出たらそれを
「わかりました――樽の材も篝火で燃やしますか」 ガラの返事に、ライはかぶりを振った。
「否、ユーコン・ストーヴで燃やす。あれがここにある中で、一番火力が強いんだ――樽の焼却は暖をとるためじゃなく、樽がここにあったことの証拠を隠滅するためだから、全部あれで燃やすよ」
「了解」 鞴もあるしな。胸中で付け加えたところで、ガラがうなずいてきびすを返す――彼が歩き出しかけたところで、ライはその背中に声をかけた。
「すまん、ガラ。リーシャ・エルフィは今夜、この鉄の屋根の中で寝てもらう。君らは重点的にこの屋根を守ってくれ――ほかの者たちにそう伝えておいてくれないか」
「わかりました。今ほかに聞いておくことは?」
「否、無い」 ライはそう答えてから周囲に視線を走らせてメルヴィアの姿を探し、兵士たちともども漂流者たちに捕まっている彼女の姿を見つけてそちらに歩いていった。兵士たちの何人かは手が空いているからリーシャ・エルフィの近接警護だけなら問題無いが、今捕まっている連中を助けてやらないと今ガラに頼んだこと全部を一度に実行出来ないだろう。
「どうした」
「あ、ライ」 わけのわからない言葉(メルヴィア視点)で散々まくし立てられて辟易していたらしいメルヴィアが、ライに気づいて絶望の中に希望を見いだした様な表情を見せる――まあある意味その通りだろう、面倒な相手を任せられる人間が来たのだ。将来彼女を故郷に連れ帰る機会が得られたときのために、メルヴィアには日本語を多少教えてある――だがまだまだ練習が足りておらず、語彙も会話速度もネイティヴについてこられるほどの習熟度ではない。
「こいつらがなにを言ってるのかわからん」 兵士のひとりの返答にうなずいて、ライは背後の飛行機の機体を肩越しに親指で示した。
「あの鉄の屋根のところに行ってくれ――リーシャ・エルフィがいるから、彼女のことを頼む。メル、君も行け――リーシャ・エルフィが機体の奥にいるから、着替えを手伝ってやってくれないか」
その言葉にうなずいて、兵士たちとメルヴィアがこれさいわいと機体のほうへと歩いてゆく――それを見送って小さく息を吐き、ライは学生たちに視線を向けた。そこで日本語に切り替えて、
「で、どうした」
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