第17話

「ユキ?」

「雨の代わりにな――白くて冷たいものが、空から降ってくるんだよ」 ライはそう答えてから、

「ただ、代わりにこっちみたいに耕作が楽なわけでもない。こっちは年間を通して気温がそんなに大きく変わらないが、向こうは桶に張った水が――って単語は、こっちには無いか」

「なんだ?」

 ライはアーランドにはそもそもが存在しないものを説明するために言葉を選んでいるのか、ちょっと考え込んで、

「あんまり寒すぎてな、水がカチカチの塊になるんだよ。当然作物が育たないから、っていう透明な小屋を作って、その中で温めながら育てるんだ」 あとは夏にドカドカ雨が降るから、それを避ける目的もあるけどな――そう続けるライに、先任兵が質問を口にする。

「あんたの家にもあったのか」

のことか? 俺じゃなくて祖父じいさんの持ち物だがな」

「あまり聞いたこと無かったですけど、家族は何人いるんですか?」 ガラの質問に、ライが肩越しにこちらを振り返る。

「親父とお袋と、まだ生きてれば祖母ばあさんと、それに弟ひとりに双子で生まれた妹がふたり――俺が一緒に住んでた家族はな。つきあいの濃い親戚まで含めると百五十人以上いる。祖父さんはもう死んでるはずだ――祖父さんが死んだという知らせが来て家に帰る途中で、エルンこっちに飛ばされたからな」

「……すいません、無神経なことを」 ライはガラの口にした謝罪の言葉に一度足を止めてこちらに向き直り、適当に手を振りながら、

「なんで謝るんだよ――というか、俺の言い方が悪かったな。嫌みたらしい言い方がしたかったわけじゃないんだ、すまん」

「あんたの知識や技術は、誰に教わったんだ?」 別な兵士の質問に、ライはそちらに視線を向けた。

「酪農や農耕の知識は、祖父母から――狩猟は猟師もやってた祖父、野戦医療や位置評定なびげーしょんその他の技術は、軍人だった親父から教わった。――戦部隊の出身だったんでな」

「弓の技術は?」

「俺の家は農家だが、同時に四百年ほど続く弓術を伝来する一族の末裔すえでもある――俺も小さいころは、赤ん坊向けのおもちゃの代わりに弓を握って育った。俺の世界じゃもう弓ってのは戦場の武器としてはほぼ完全にすたれて、ごく限られた隠密作戦用か競技としての側面しか持ってなかったけどな」

「隠密作戦?」

――無音殺傷という意味なんだが、つまり敵の陣地に夜襲をかけたり見回りを排除したりするときに、動哨や立哨を音を立てずに斃すために使うんだ。俺の世界で一般的な射撃兵器は、たいてい派手な音がするんでな」 ライはそう答えてから、鞘の上からを軽く叩いた。両端に滑車のついた、異界の技術で作られた異形の弓。

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