第16話

 そういえば――

 昔ガラが王国軍に志願するという話をしたときに、ライが彼の祖国の国軍に所属していたという父親の受け売りと称して、最強の兵士の基準について話してくれたことがある。


 いわく、戦闘に強いこと。

 いわく、隠れるのが巧いこと。

 いわく、どこに行っても迷わないこと。


 なるほど、そう考えるとライは父親の考える最強の兵士の基準を十分に満たしているといえるだろう――もっとも、本人のその技術の使い道は狩猟であって戦争ではないが。そんなことを考えながら、月明かりの下でも目立つメルヴィアの後ろ姿を追って隊列についてゆく。

「……遠いね」 メルヴィアの感想に、小さくうなずいておく――くだんの山砦は三ファード近い幅のある高台の南側の端にあるため、北側の端からだとかなり遠い。逆に言えば、今の段階ではそうそう発見される恐れも無いということだが。

 山砦までの間には数十の木がまとまって生えた小さな林やかつてこの高台上にあった施設が崩壊したものらしい瓦礫の山が点在しており、隠れ場所には不自由しない――といっても、一番近い遮蔽物から山砦までの接近は当然遮蔽物の無いところを歩かなければならないが。

 みっつ存在する月すべてが満月であることが問題だった――魔物の月マァル・シャーイは砦の向こう側だからいいが、残るふたつの月はいずれも砦よりも北側に位置するため、魔物の月マァル・シャーイの光によって作り出される砦の影が残りふたつの月の光で打ち消されて無くなっているのだ。地面に伸びた影で発見される恐れは無いが、代わりに自分たちの姿は丸見えだ。

「ところで、ガンシュー・ライ」

「なんだ」 ゲイルの言葉に、ライが歩みを止めないまま返事をする。

「王女殿下と一緒に囚われているという漂流者はどうする?」

「わからん」 あまり気乗りのしない口調で、ライがそう答えを返した。

「それは正直言って難しい質問だ。彼らは俺と同じ世界、同じ国の出身だ――ないがしろにしたくはないが、長々と面倒を看てやれるほどの余裕も無い」 正直に言うと今の時点でも割といっぱいいっぱいでな、これ以上仕事が増えたら捌ききれる自信が無い――溜め息に載せる様な口調でそう続けるライに、

「確信があるのか? 自分と同じ国の、同じ民族だと?」

「間違い無い――あのの車体の前後に、文字が書かれた緑色の板が取りつけてあっただろう? あれは俺の祖国における、車輌の個体を識別するための番号だ――あの様式、あの文字で個体識別を表現してる国は、俺の世界にはほかに無い」

「故郷はどんなところなんだ」 別の兵士――ミトロという名のガラよりも先任順位がひとつ上の兵士が、そんな問いを投げる。ライは歩みを止めないままちょっと考えて、

「広い平野と山と空と――とりあえずこっちに比べると、かなり気候が極端だな。割と季節ごとの天気や気温の変化がはっきりしてる。ユキも降るしな」

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