第54話
南に面した壁には窓は無い。おそらく広い面に開口部を設けることによる、構造物の剛性の低下を嫌ったのだろう――それに窓を設けたところで防壁が邪魔になって、そこから戦場の様子を窺うことは出来ない。
それは北側も同じだが南側は主警戒方向なので、その点もあって窓は設けなかったのだろう――戦場の方向に窓を設けておくというのは室内から敵情を観察するには有利かもしれないが、この山砦の場合高低差がありすぎてまるで役に立たない。窓から外を見たところで、視界に入るのは防壁の内側だけだ――それなら窓など設けても剛性が落ちるだけで、なんの意味も無い。換気と採光の役には立つかもしれないが、どうやらこの施設を設計した人間は換気や採光に価値を見いださなかったらしい――あるいは放物線を描いて壁越しに撃ち込まれた攻撃が、兵舎の内部に直接届く可能性を潰そうとしたのかもしれない。
窓は西側に二ヶ所、防壁通路の足元から五十センチくらいの高さにひとつ、高さ三・二メートルくらいの位置にもひとつ。いずれも五十センチ四方くらいの、おそらくは換気を目的としたもので、さほど大きくはない。窓枠がある様には見えないからおそらく木の蓋をかぶせる様にして窓を閉めるのだろうが、その窓は朽ちて失われたのか最初から無かったのか存在していない。
兵舎の屋上に続く階段は西側、南側から見た今の状況だと向かって左側にある。屋上と防壁通路との高低差は五メートルなかば、室内の天井はさほど高くない。
駄目だ。接近経路は階段に限定されるし広場からだと距離もあるが、ちょうど足元になる兵舎の内部の動きがわからない――し、リーシャ・エルフィのいる地下牢に向かった敵がいた場合、対応が遅れると完全に死角になって対処出来なくなる。さらに言えば兵舎から出てきた敵が屋上に接近を試みた場合、近すぎて対処出来ない。
となると――ライはその場で反転し、東側の物見塔へと通じる開口部から外に視線を向けた。
ふさわしい場所は、南側――
先述したとおり、南側の防壁は何者かの攻撃によって崩落している。本来は二塔の
どうやら、理想的なのは途中で分断された防壁通路のどちらかである様だ――どちらでもかまわない。
砦全景を
あとは兵舎内の敵をどうするかだが――
兵舎内に敵がいるかは、わからない――発見されるリスクが跳ね上がるので、兵舎に対して偵察を試みることは出来ないからだ。だがいようがいまいが関係無く、いるものと考えて対処しなくてはならない――いなければそれでよし、もしいたとしたらそれを放置することで致命的な状況になりかねないからだ。
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