第42話
両方一度にやろうと考えてはいけない――いっぺんにやろうとするとしくじる。
気づかれそうになったらすぐに動きを止めればいい、中途半端に経験を積んだ者がいだきがちな間違いだ。音を立てず挙動を小さくする、獲物の様子を観察する。両方一度にやろうとするとどちらもやっている様で、その実どちらもおろそかになる――そうなったら発見される。
狩猟はありとあらゆるすべてが、自分の
さらにいくらか這い進むと壁の開口部に対して位置的に斜めになり、中にいる男たちに姿が見えなくなる――実のところ、広場の中から外側を観察するぶんには通路下をくぐるための五メートル近いトンネル状の出入り口があるので視野は極端に狭い。少し角度を取るだけで、広場の内側から外を観察することは出来なくなる。逆もまたしかり――トンネルの中心線からいくらかずれれば、こちらからも内部の様子は窺えないが向こうからもこちらの姿は見えなくなる。これで広場にいる連中から発見されることは無いはずだ。が――
地面に俯臥せになったまま、壁上の通路の様子を確認する――相変わらず人影は無い。
続いて地下牢直上の建物上構造物の屋上――室内から屋上に登ることは出来ないが、出入り口の反対側、西側に階段がありそこから屋上に登ることが出来る。すでに屋上に出ることのかなわない
目の前の山砦に影は無い――
隠れるところが無いというのは、厄介だが――
まあ言っても仕方が無い。故郷にいたときでさえ、これよりも厄介な状況はいくらでもあった。少しずつ這い進む様にして、北側の壁に近づいていく。
北側の壁の外側には窓も通路は無いので、東西の壁上通路の位置から死角になっていればそちらから発見される恐れは無い。だが北側の壁にはなにも張り出していないので、屋上のへりか居住用構造物の出入り口から真下を見下ろせば簡単に発見される。ある程度壁に近づくと、もう周囲、特に屋上の様子を窺うことも出来ない。ライは少し動いては耳を澄まし、耳を澄ましては少し動いて、仲間に不審物の存在を知らせたりする声が聞こえないことを確認しながらじりじりと建物に接近していった。
建物の壁に指先が触れたところで、ライはそのまま壁に背中をつける様にして上体を起こした――壁沿いに左右を見回してから、周囲の状況に馴染むために深く息を吸い込む。
砦の構造をもう一度、頭の中に思い描く――ライがいるのは北側の壁のちょうど中央あたり。半地下の空間に降りるための
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