第43話

 両側の壁際に牢獄が左右それぞれ二室と左右の牢獄の間、スロープを降りたその正面に二室。各牢獄は石造りの壁で区画されており、傾斜から降りた場所に面する側はすべて鉄格子が入っている。

 外側を石壁、内側を鉄格子で造ったU字型の牢獄を石造りの壁で六室に区画しているのだと言ったほうが、想像しやすいかもしれない――U字の内側はすべて鉄格子、外側は建物の外壁で、鉄格子と壁の間の空間が石壁で六室に仕切られている。したがって、牢獄を区画する壁を破壊しても隣の牢獄に出るだけなので脱走は難しい。

 半地下とは言うものの実際に地上よりも高い位置に露出しているのはほんの十数センチ程度で、残りは地中に埋没している――仮に外に面した石壁を破壊したとしても、それで外に出ることは出来ない。

 翻って外壁は四十センチほどの厚みがあるが、南側の重点警戒方向に築かれた防壁と違って地下牢や上層の構造物を構成する石材ひとつひとつは現代日本で見かける煉瓦より一回り大きいくらいのものだ――だが切り出された石材の切削精度が非常に高く、また数千年前の建物にしては異様に強固に接合されている。これを人間が手で破壊するのは難しいだろう。

 確かこの壁は――胸中でつぶやいて、ライはあらためて左右を見回した。すぐに目的のものを見つけて、そちらへと近づいていく。

 ライが探していたのは、地表の上に設けられた換気口だった――先述したとおり、地下牢は半地下という名に反して半分どころか全体の八割以上が地中に埋没している。代わりに残る天井際十数センチは地上に露出しているので、地表よりも高い位置の石材ブロックの一部を抜いて換気口を造ってあるのだ。

 石材自体もさほど大きいものではなく、それだけに換気口の開口部はさほど大きくない――小さいのは仕方が無いが、文句も言えない。それに覗き見するには十分だ。

 ただ、この換気口は内部を覗くのには使えない。

 換気口から中を覗き込むのは、実のところ危険リスキーな行為だと言える――この明るい月夜では、中からは外が明るく見える。もしタイミング悪く賊が斜面スロープを降りてきていたら、正面に見える換気口は非常に明るく見えるだろう。換気口から中を覗き込むことで光を遮ったら、中からは換気口から覗く外の光景が突然暗くなって見えることになる。外に不審者がいますと、宣伝している様なものだ。

 となると――スロープの正面に位置する北側外壁の換気口から中を覗くのは、最後の選択肢にしたほうがいいだろう。

 胸中でつぶやいて、ライは音も無く歩き出した。換気口を足でふさがない様にまたぎ越え、東側の角へと歩いてゆく。

 先述したとおり、この砦内の牢獄は鉄格子で隔離された空間を石壁で間仕切りする形で造られている――両側面の二室を先に造り、その間の空間を半分に仕切る形で正面の牢獄を造ったために、正面の牢獄二室の床面積はさほど広くない。角のあたりに穿たれた換気口は、東側側面奥の牢獄の換気口のはずだ。

 換気口の正面は牢獄の構造上石壁になり、また鉄格子の配列の角の部分から東側の壁と平行に石壁が配置されているので、両側の奥の牢獄はどちらも扉以外のほとんどが壁になり換気口はスロープ側から死角になる。ここから覗いても、スロープ側や広場から気づかれる可能性はまず無い――代わりに見える範囲も狭いが。

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