第17話
*
「
半地下になった牢獄から地上の広場へ上がるための緩い勾配の斜面の下に、ふたりの賊が折り重なる様にして倒れている――先ほど近くで聞こえたふたりぶんの悲鳴の出所はこれだろう。
上体に損傷は見られないが、上になった賊は片足が一本の棒の様にピンと伸びている――なにをされたのかはわからない。
聞こえてきたのはよく知った声だ――記録上はじめてアーランド王国の住民と接触した、王国の歴史上最初の
彼はいったいどの様な奇蹟の結果か、まったく異なる異界からこの大陸に訪れた
世に出た理由こそそれではあるが、同時に極めて高い長弓射撃の技量と戦闘能力を持つことから、王国の貴族や騎士団などの軍事関係者の間ではこの名前で呼ばれることが一般的だった――
彼は大陸南部、二ヶ国にまたがる広大な樹海に別世界から飛ばされてきたのだそうだ。はじめてこの世界の人間と接触するまでの数ヶ月間、彼は獣を狩ったりしながら森の中で生活していたという――狩猟を生活の糧にする専業の狩人がいないアーランドにおいて、もっとも樹海に詳しい男だろう。
おそらく彼女が今囚われている、この砦のことも知っているはずだ――父王デュメテア・イルトや王弟イルトファ・ケリーは彼と個人的な友誼があるので、救出部隊を父が派遣するなら山砦までの案内人として彼を選ぶことは容易に想像がついた。
想像はついたものの――理由は知らないが、早すぎる。
彼女が乗った
護衛部隊の兵士たちは、毒を塗った矢で射られて殺されてしまった――装甲馬車の車内に同乗していた世話係の年老いた侍女たちも、邪魔だとばかりに斬り殺されその場に打ち棄てられた。兵士ひとりだけが身代金を要求する文書を持たされて逃がされた様だが――途中で替え馬を駆使しながら昼夜問わずに早馬を走らせたとしても、彼が王都カーヴェリーにいる父王に事態を報告するまでには少なく見積もって十五日はかかるはずだ。
ここは王家が直接統治する直轄領内なので、軍の統率権は国王本人にある――ただ各地に駐屯して有事に対処する部隊はその指揮官に独立した指揮権が認められており、国王や軍務卿、将軍などの上位者が指揮権を掌握しない限り独立して行動することが出来る。
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