第23話

「小冠と耳飾り――首飾りと腕輪を二個と指輪三個を」

「合計八個――否耳飾りが左右で合計九個? ほかには無いな?」

「ええ、靴は元のままですし」

「わかった」 ライはそう答えてユーコン・ストーヴのところまで引き返し、

「メル、リーシャ・エルフィの荷物を預かってやってくれ」

 そう声をかけられて、それまでの卓に腰かけていたメルヴィアが立ち上がる。

「衣裳は?」

「別に、置いていっても――」 かまわない、と言いかけたリーシャ・エルフィの言葉を手で遮って、ライはかぶりを振った。

「否、君の持ち物は――着替える必要は無いが――すべて持っていく」

 不思議そうな視線を向けるリーシャ・エルフィに、ライがそちらに視線を向けて、

――」 妙に真面目くさった口調で、ライがそんな言葉を口にする――アーランド軍にはそんな作戦手順は無いので、これは作戦手順なのだろう。

「さっき隊長ゲイルが言ってただろ、。完全に形が残らなくなるまで燃やすか、もしくは持っていくかだ」 そして彼女の衣裳は、ただ燃やすだけでは完全に痕跡を消せない――細々した装飾用の鉄具や鳩目が燃え残るからだ。結局持っていくのが一番楽だ――燃やすにしても持って行った先で焼却するのがいい。

 洗ってなんとかなるなら、持っていくべきだと思うが――ライの助言に、リーシャ・エルフィが眉根を寄せる。

「どうした、俺そんなに変なことを言ったか?」

「いえ、そうですね――職人の方が精魂こめて仕立ててくださったものですし。洗って綺麗になればいいのですけど――」 リーシャ・エルフィはそう返事をしてから、来ている服の裾を引っ張って、

「ですが勇者の弓シーヴァ・リューライ、出来たらこの服をお借りしたままでいたいのですけれど――シャラに乗るのも楽ですし」

「ああ、わかってる――あんなの一回脱いだら、自分ひとりじゃ着つけも出来ないだろうしな」 ライは適当に手を振って、機体側面から入ってきたメルヴィアに視線を向けた。

「装身具九点と衣裳が一着」

「わかった」 簡潔な指示にうなずいて、メルヴィアが操縦室に足を踏み入れる。

「お弁当代わりにチーズを持ってってもいい?」

「ああ、全部持ち出そう――そろそろ新しいものが出来上がるから、入れ替えようと思ってたところだ」 操縦室の中からかかった声に、ライは振り向かずにそう返事をした――どうせ彼女からもこちらの姿は見えていない。

 とりあえずメルヴィアひとりでは、リーシャ・エルフィの衣裳とチーズを両方は持ちきれないだろう。そう判断して、ガラはそれまで立っていたのそばから歩き始めた――熱源から離れて一気に肌寒くなるが、寒気は意識から締め出しておく。

 通路にいた若者たちが、ガラが近づいてくるのに気づいて道を譲る――片手を挙げて通路を通り抜け、開け放された奥の扉をくぐって室内に足を踏み入れると、メルヴィアがお世辞にも座り心地がよさそうには見えない椅子の上に載せた箱の中から塊のチーズを取り出しているところだった。

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