第17話
しかも連中が砦で戦闘の跡を発見するのは早くて数日後、下手すれば誰も来ないかもしれんのだからな――ゲイルがそう付け加えると、先の問いを発したレイムという若い兵士が首をかしげた。
「誰も来ない?」
「時間的にな――俺たちが行動を起こす前に、宿場町の間を往復する巡回動哨が襲撃現場を見つけた可能性がある。というか、時間経過的に考えてそうなっている可能性が高い――で、その場合、国王陛下や我々があずかり知らぬところでレンスタグラ砦の司令官・スタッフォード総督に報告が行っているはずだ。どのみち巡回が見つけようが見つけまいが、街道を通る民間人の商団や旅人が遅かれ早かれ確実に襲撃現場を発見し通報するわけだから、ネイルムーシュに潜伏している連中は国王陛下がどういう対応を取るかにかかわり無く、誘拐事件の発生時の標準手順に基づいてレンスタグラ砦から捜索・追討部隊が発出されると考えるだろう――拉致被害者が王侯である以上、投入される人員数も一般人の捜索とは比べ物にならないしな。殿下を拉致した連中は樹海の中を足跡や轍の跡を残して移動しているわけだから、あの砦、少なくともそこの川の水源あたりまでは追跡は容易い――それと鉢合わせする可能性があるわけだから、そもそも遭遇を忌避して近づこうとしないかもしれない。
ということでいいな?という視線を受けて、ライが小さくうなずいてみせる――それを確認して、ゲイルはライの足元のゆうこんすとーぶを指し示した。正確にはその中で燃え盛る、用済みになったので燃料にされた樽を指しているのだが。
「つまりガンシュー・ライ。我々はあの砦から奪ってきた樽を焼却した。焼却出来ない金属の箍と、それに王女殿下の衣裳を運び出して川を下れば、まず間違い無く追跡を断てるということだな?」
「そういうことだな」 ライは満足げにうなずいて、
「そういうわけで、食事を済ませたら移動の準備を始めよう」
「水中に罠のたぐいは?」 ガラが尋ねると、ライはかぶりを振った――いい手だと思ったのだが。
「やめとこう――下手な小細工をしても、敵を思い通りに動かせないかもしれないから」 それ以上の説明をするつもりは無いらしく、ライは食事を終えた兵士から器を受け取るために手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます