第6話

「それと、そこにいるシャラの馬具を確認しておいてくれ――リーシャ・エルフィは馬を使ってもらう」

「わかりました」

 ガラの返答にうなずいて、ライは周囲にいるエルンの現地民たちに視線を向けた。

「集まれ」 その号令に、リーシャ・エルフィのそばについていたメルヴィアがこちらに向かって歩き出す。リーシャ・エルフィも彼女について歩き出し、ややあって兵士たちも含めた十人が集合した。

 ライは自分の周りに集まった者たちを見回して、

「用意してくれ、ここから移動する――お姫さんにはシャラを使ってもらおう。もう一頭はメル、君が乗って口を取ってやれ」

「それなら勇者の弓シーヴァ・リューライ、貴方が一頭を使ったほうが――」 わたくしは勇者の剣シーヴァ・ディーメルヴィアの後ろに乗せていただきますから――と続けるリーシャ・エルフィに、ライはかぶりを振った。

「駄目だ」

「ですけれど――」

「俺は乗馬が出来ないんだよ」 だから遠慮しておく。一言で片づけて、ライはかたわらの樽をポンと叩いた。

「それは?」

「ここにいた連中の食糧を見つけたから、持っていく――水は今のうちに飲めるだけ飲んでしまおう。食糧は樽ごと、薪と、使い道があるから空の水樽も持っていこう。人数が一気に増えたからな、いくらあっても邪魔にはならん」 ガズマの質問にそう答えてから、ライは漂流者たちを呼びに行くために死者たちの墓のほうへと歩き出した。


   §

 

「おい」 横手から呼びかけられて、それまで同級生たちの墓標の前でひざまずいていた康太郎は顔を上げた。砦の門のところから顔を出したライが、

「これからここから移動する――腰を落ち着けたら、傷の手当てもしてやる。喉が渇いてたら、そこに水があるから多少飲んでおけ。飲みすぎない様にな」

「どこへ行くんだ」 同級生のひとり、風祭信一の発した質問に、ライがそちらに視線を投げる。

「ここから七、八キロほど離れた飛行機の残骸のところだ。北側から高台を降り、水源地を廻り込んだ先だ――おそらく近くは通りかかってるだろう」

 ライはそう返事をしてから掌を下に向ける様な妙な仕草をして、ふたたび砦の広場へと取って返した。

 仲間を促して砦の敷地内にふたたび足を踏み入れると、兵士たちがそれぞれ金属製のカップを手に樽の中の水をあおっているところだった――といっても生のままというわけでもなく、ちゃんと濾過してから焚き火で沸騰させているらしい。この高台の上はずっと風が吹いており肌寒いので、白湯とはいえ温かな液体はありがたい――水を沸騰させるのに使っているのが、スノーピークのロゴが刻印されたチタン製クッカーであるという点を除けばだが。

 否、それ自体は別にいいのだ――スノーピークはアウトドアブランドとして日本国内のシェアが大きく海外での評価も高い。トップブランドのひとつだが、問題はそれがなぜここにあるのか。

 顔を見ただけで康太郎の疑問を察したのか、褐色の肌の少女からカップを受け取ったライが、

「俺と同じ飛行機に乗ってた登山家アルピニストの遺品だ――彼とアメリカ軍兵士たちの遺品のおかげで、俺はこの樹海で三ヶ月生き延びた」

「それってつまり、こっちに来たのは俺たちだけじゃないってことか?」

「順番という意味か――それとも時代のことか? 俺やおまえたちがここにいるんだから、と考える根拠なんぞあるまいよ――俺より前にこっちに来て死んでる人間も見つけたし、おまえたちの様に俺とそう変わらない時期から来た者もいれば平安時代の甲冑を着た武士もいた。アメリカ軍の兵士がいたから、もといた場所が日本に限ったわけでもない――武士が生き延びてれば、彼にとって俺たちは未来から来た人間だということになるだろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る