第5話
「……」
差し出された短いシャベルを震える手で受け取って、若者が前に進み出る。彼は掘り返された土をシャベルの刃ですくって穴の底に横たえられた遺体の上にかけると、次の仲間にシャベルを譲った。
安全な状況になったことで仲間の死の実感が湧いてきたのか、すすり泣く声も聞こえてきている――小型の折りたたみシャベルでは作業も遅々として進まず、遺体の埋葬が終わったときにはすでに三十分ほどが経過していた。
仲間の死を嘆く者、それを励ます者。いずれの気持ちも理解出来たので、ライも兵士たちも彼らを急かしたりはしなかった。
ライは彼らを放っておいて、ふたたび砦内の広場に足を踏み入れた。出発するまでは好きにさせてやろう。
それに、今はほかに考えるべきことがある。
広場の南西側の隅に近い場所に置かれた荷車の車輪に、二頭の
開封済みの樽の中身を確認してみると、やはり保存食が大半だった――そのほとんどが塩漬けの野菜、鰭の破片が残っているから魚の干物もあった様だが、使い切られたのかすでに無くなっている。アーランドもそうだがエルディアでも狩猟はほとんど成果が挙がっておらず、畜産も行われていないので、いわゆる
あとは水樽と、カチカチに乾燥させることで腐敗を止めたいわゆる黒パンの一種――もうほとんど残っていない。野菜の量も多くなく、これで喰いつなげるのはいいところ明日の朝食まで――切り詰めて昼食までというところか。
あとは一緒に竹製の水筒に詰められた乳酒が入っているのは、
少し離れたところに並べた未開封だった樽を確認すると、こちらはつまり移動を始めることを前提にした食糧だった――つまり明日の朝食、あとは昼食。場合によっては夕食にもするかもしれない。
だがこの程度の量で四十人を養うのは、どんなに切り詰めてもせいぜい一日がいいところだ――それまでには仲間と合流するということであれば、彼らの仲間はそう離れていない場所にいる。
食糧とは別に衣料品の入った樽もあるのが問題だった――賊たちの肌着という様子ではない、
「なんです、その樽?」
ガラが横から手元を覗き込んできたので、ライは彼が見やすい様にちょっと体をずらした。わざわざ説明しなくても中身を見ただけで納得したのか、
「どうします、それ?」
「中身を確認して糧食は持っていこう。水は飲むだけ飲んで棄てていく――服も燃やしていこう。飛行機のそばに水源地があるからな、水を持っていく必要は無い」
「了解」
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