第10話

 ライは肩に置かれたメルヴィアの手に自分の指先を添えてから、

「というわけでだ、これから砦の現況と作戦について説明する。出来れば尋問するために二、三人生かして捕らえたいが、自分の命と天秤にかけてまで生け捕りを考える必要は無い。どうせ用が済んだら殺すから、あくまでここにいる味方とお姫さんの命が優先だ。いいな?」

 全員がうなずくのを確認して、ライはメルヴィアに視線を向けた。

「君はここになにを持ってきてる?」

「なにって――」

「硝石やガソリンはあるか」

「ああ、それなら――ライが前に一緒に狩りに出るときに用意してくれたのを、そのまま持ってきてるから」

 メルヴィアがそう答えて、肩から襷がけにした鞄を掌で軽く叩く。彼女は鞄の中を確認しながら、

「硝石と、と、蝋燭と、あと――」 中身を声に出しながら地面に並べてゆくメルヴィアから視線をはずし、ライはガラに声をかけた。

「ガラ、頼んでたものは持ってるか」

「もちろん」 ガラがそう返事をして、外套を背中に払う。彼も襷がけにした鞄――細々した装備品を納めた、たっぷりと油を染み込ませて撥水性を持たせた軍の標準支給品だ――を持っているが、それとは別に矢筒に収められた数十本の矢を矢筒用のベルトで襷がけにしていた。彼らが携行している軍用のクロスボウに使うクォーラルではなく長弓ロングボウ用の矢で、ライが好んで使うものよりも少し短い、軍用ミル規格スペックに準拠した小さな金属製の鏃を備えた軍用の矢だ。

 鏃が小さいのは数を持ち歩ける様にするためで、やや大きめの矢筒に三十数本の矢が収められている。

「よしよし。あ、革帯はいいから矢筒だけくれ」

 手を伸ばして、ガラが差し出してきた矢筒を受け取る――数本の矢を地面に並べるライの様子を見ながら、

「これを用意させたってことは――ライ、なにかえぐいこと考えてるんですね?」 ガラがそんな言葉をかけてくる――ライは雑嚢を探りながらさも心外そうに、

「酷いな、ガラ――数が足りなくなるかもしれないから頼んだだけだぜ」

「目をそらさずに答えましょうよ、そういうことは」 しらじらしい口調でごまかしきれずに魚のごとく目を泳がせながら返事をするライに、ガラが適当にかぶりを振る。その視線から逃れる様に顔をそむけながら、ライは雑嚢の中から金属製のブレスレットを引っ張り出した。

 金属バンドの腕時計の様な複数のピースで構成されたブレスレットだが、ひとつひとつのパーツがドライバーや六角ヘキサゴンレンチ、トルクスヘックスローブビットなどの工具を組み合わせたもので構成されている――レザーマンというアメリカのツールナイフメーカーが販売していたトレッドという製品で、一言で言うと駆動ドライブ工具ツールの集合体だ。ライが地球からこちらに飛ばされてきたときに身に着けていたもので――普段は身に着けているものだが、森に入るときははずして持ち歩いている。森の中では、反射物は邪魔にしかならないからだ。

 金属製のバンドを備えた紳士用腕時計の大半にみられる様な折りたたみ式のバックルを開いて、その状態でバックルに近い道具のひとつを選び出す。

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