第9話
まあ少なくとも、状況を改善するために自分からライのもとに助力を請いに来たデュメテア・イルトとジーク・ルグスは、叛体制派の共産主義者に比べればはるかにまともだろう。
「俺も以前、何度か叛体制派の攻撃を受けたことがある」 ライの言葉に、メルヴィアがこちらに視線を向ける。
「直接襲われたのが一度――ここにいるメルが撃退してくれたがな。もう少しで収穫出来るはずだった農地に塩を撒いて、それまでの開墾を台無しにされたこともある――食糧不足の改善が出来ないジーク・ルグスの廃位を主張しながらみずから農地を台無しにしてる矛盾に気づかないあたりが、いかにも馬鹿の浅知恵って感じだが。まあ、権力を簒奪して自分たちだけ綺麗な服を着て旨い物が喰えればそれでよしってのが共産主義だから、馬鹿というより眼中に無いだけかもしれんがな」
「そういうものですか」
「そういうもんだ。俺は親父が自衛官――こっちで言う職業軍人でな。そのせいで――おっと、言い方が悪かった。親父が元職業軍人であることに恥じるところはなにも無いから、そのせいでという言い方はすべきじゃないな。それを理由にして学校――近隣の子供を何十人も集めて教育する施設の馬鹿な教師に、さんざん嫌がらせされたことがある。だから色眼鏡で見てるのを否定する気は無いが、間違いでもないと思うぞ」
「国軍の兵隊の子供に嫌がらせをするんですか?」
「ああ――人殺しの子供だのなんだのさんざん言われたよ。ついでに自分の息子をけしかけて、俺や兄弟にいじめもしてきた。四十五十にもなって共産主義なんて黴の生えた思想に首までどっぷり使ってる阿呆に、なに言われてもいっこうに気にならなかったがな。少なくとも俺の父親は災害が起こるたびにあっちこっちに飛んでいって自国民を救助する仕事をしてたんだ、さいわいなことに自国民はもちろん他国民を手にかけたことも無い。政権を取ったら確実に自国民を手にかけるであろう政治思想に騙されてる奴になに言われても、乾いた笑いしか出てこなかった――ま、しっかり仕返しはしてやったがな」
「どんな仕返しを?」 それで話を切り替えるつもりだったのだが、先任兵のひとりがそんな問いを口にする。
「生徒の家族が授業を見学してるときに、教え子の父親をとっかえひっかえしてるのを曝露してやったのさ――俺にけしかけてた息子が、亭主の子じゃないこともな。赤くなったり青くなったり白くなったり泡噴いたり、なかなか面白かったぞ――書きたくもないお見舞いの手紙を書かされたから、不倫おばさんの授業つまんないって書いて送ってやった。復帰する前に俺の親戚の手回しで飛ばされたから、あとは知らん」
ライはそう答えてから、
「まあ、それはさておきだ――そのろくでなしどもの思惑通りにならない様に、きっちり痛めつけてやるとしよう。王族に手を出した時点で国賊だしな。あとさっきの話だがな、せっかく開墾した農地にどっかの誰かが塩を撒いたせいで収穫間近の作物が台無しになって、絶望して家族で首を吊った農民を知ってる――奴らはそのあとで、俺とジーク・ルグスを非難する声明を出した。原因を自分たちが撒いた塩じゃなく作物の病気のせいにして、病気を事前に防げなかったことを非難する形でな。ちょうどいい機会だ――俺は他人の足を引っ張るしか芸の無い抜け作になにを言われようが気にもならんが、俺やジーク・ルグスを非難する口実にするために家族ひとつを自殺に追い込んだことは許せん。阿呆どもを皆殺しにして彼らの仇を討とう」
「ライ――」 なにか話しかけようとしたメルヴィアが、黙り込む――家族で首を吊った農民一家の墓前で、ライが当時どれだけ怒り狂っていたか思い出したのだろう。
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