第7話
「俺のいた世界にも共産主義思想はあったが、まさにそんな感じだった――奴らが叫んでるのは、たいして学も無い素朴な人民を騙して操るための題目でしかない。だから、自分たちが権力の座に着いたらそれまで叫んでた理想なんか忘れたかの様に傲慢に振る舞う。俺のいた世界には歴史上いくつか共産主義とか社会主義の政権があったが、やってることはみんな一緒だ――密告と洗脳と搾取と弾圧。こいつらもジーク・ルグスを打ち倒したら、真っ先に手をつけるのは不満分子を始末する秘密警察の創設だよ――騙されたんだと気づいた者たちに、『今度こそ俺たちの手で理想社会を!』ってやられたら困るからな」
ライは吐き棄てる様にそう返事をしてから、がりがりと頭を掻いた。
「だが、離間工作に意味はあるのか? 否、ジーク王の王政を転覆するだけなら、別に離間工作を弄する必要は――」 兵士たちのひとりが、そんな疑問を口にする。ライはそちらに視線を向けてかぶりを振り、
「そりゃ、両国間の関係を良好に維持出来なかったわけだから、市民の印象は悪くなるだろうな。それと、俺が技術指導を引き受けるときにな――取り交わした条件に相互の不可侵や有事の安全保障上の協力とかの項目があるんだが」
ライがエルディアの技術指導を引き受ける際に交わされた条件に、両国の不可侵や相互の安全保障などが含まれているのだが――婚約が破棄されて関係が悪化すれば、これらも白紙に戻るだろう。
現状では外敵の侵攻であれば合意無く――内部蜂起による体制転覆であれば救援要請を受けたうえで、アーランドとエルディアはたがいに相手国内に援軍を派遣することが出来る。
だが関係悪化後であればエルディアの国内で本格的な武装蜂起が起こってもアーランドは救援を出そうとはしないだろうし、エルディアとしてもその要請を出さないだろう。
「つまり、実際に体制転覆が起こってもアーランドがエルディアを切り棄てると読んでるんだろうな――実際に内部蜂起が成功するかどうかは置いといて」
「富の分配か――出来ることなら出来ればいいですけどね」
「分配すべき富が実際にあるかどうかは別問題だよ、ガラ――搾取で手に入れた富と、本人が努力した結果手に入れた富も混同すべきじゃない。それと、これは憶えておくべきだ。こういう連中が景気のいいことを言うのは、責任を取るつもりが無いからだ――いざ権力を奪取すれば、あとは約束を破っても権力で抑え込めるからな」
……否もちろん自分たちの浪費で国を傾かせる例もあるわけだが、少なくともエルディアの場合食糧不足は王政のせいではない。農耕技術の未発達による食糧不足はアーランドも同じだったし、旱魃が原因の飢饉はなおのこと王政に責任は無い。むしろ招聘されて王都に赴いた際に目にした城の様子を思えば、当時の王政はぎりぎりまで切り詰めていたほうだと言える。
まあ、食糧不足を改善出来ないから王政は無能だとする考えもあるだろうが――だとしたら政権が共産主義に変わったところでなおのこと改善は出来まい。少しばかりの浅知恵をつけた、あるいは浅知恵すら無いのに自己評価だけが無駄に高い浅学無才の徒がよく言えば純朴、悪く言えば学の無い民衆を騙すために無い知恵を絞って考えたのが共産主義や社会主義の題目なのだから、そいつらが政権を取ったところで改善するわけもない。
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