第5話
皮肉を込めて唇をゆがめ、ライはそれかけた思考を軌道修正するために軽くかぶりを振った。
「どうして、エルディアの叛体制主義者が
「今の時点では、リーシャ・エルフィはまだ無事だ――奴らは身代金を持ってきた使者を殺して金を奪ったあと、彼女を暴行してエルディア側の領地内で発見させる計画だ」
「なっ――」 声をあげかけたガラを手で制して、ライは先を続けた。
「暴行され保護された女性が王女リーシャ・エルフィではないとデュメテア・イルトが取り繕うことが出来ない状況で、エルディア側に保護させる。当然婚約は破棄――デュメテア・イルトがエルディア領内に軍を差し向けようとすれば、アーランドとエルディアの間で外交問題が発生するだろう。それでなくても両国の王家の子女の間で婚約が破棄になって、関係悪化が起きた直後だ」
当然のことだが、デュメテア・イルトは自国の王女が凌辱されたなどという理由を公表して軍の派遣を行うことは出来ない――王女が凌辱されたという事実、彼女の身を守れなかったという事実、領内で王女が拉致され暴行されたという事実を周辺国と国民に公表しなければならないからだ。
「いくら本人の責任でないとはいえ、凌辱された娘を婚約関係にあったゾット・ルキシュが受け入れることも無い――本人たちがどう思っていようが、事情が漏れてる以上周りが許さないだろう。アーランドとエルディアの間に出来た亀裂は、絶対に修復しない」
かといって周辺国や国民に対して理由を隠したまま、つまり拉致実行犯と計画者を捕らえるという理由を臥せたままでエルディア領への軍の派遣を強行すれば、最悪戦争になるだろう――ライがエルディアに対する農業指導を行うための条件として両国間の不可侵条約の締結を挙げたので、周りの国からはアーランドがそれを一方的に破棄して侵攻した様に見える。
「つまり、アーランドとエルディアの王子王女の結婚を阻止したいってことですか?」 ようやく話が見えてきたらしいガラの口にした質問に、ライはそちらに視線を向けて小さくうなずいた。
「それと両国の関係悪化な。両国間の関係が悪化すれば、建前上はともかく実際には俺の行動にも影響が出てくる――どうやっても絶対に、エルディアの農地改革は今まで通りには進まない」
「でも、それになんの意味が? 自国の食糧増産が進めば、叛体制派だって――」
「国王の支持率を下げたいんだろう――連中の目的は政権の簒奪で、国民の食糧事情の改善じゃない。国王から政権を奪って実権を掌握するまでは、民衆に自分たちを支持してもらわないと困るのさ」 メルヴィアの質問に、ライはそう返事をした。
「無論専制君主制の王政国家だから、そこらの町内会の会長選挙の様に支持率が落ちたから交代するわけじゃない。だがそれでも、奴らの武装蜂起を支持する民衆は増える――どうせすぐに主張が建前にすぎないことがばれて国王の復権を望む様になるだろうが、そのときにはもう遅い」
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