第7話 本番の日
「それでは、第2回学力試験を始めます。机の上には、筆記用具と時計のみ置いて、それ以外はカバンの中にしまって下さい」
教壇の上で、大貫が良く通る声でそう告げた。3年A組の教室にぴりっとした緊張感が走る。中間試験のときよりも、わずかに教室全体がそわそわしているように胡桃には感じた。
試験についての注意事項を話し終えた大貫は、教壇のパイプ椅子に腰掛けた。1時間目の試験開始時刻は、9時ちょうど。あと5分ほど、待ち時間が合った。
気が遠くなるほど、静かな時間だった。
その間、胡桃はこの数ヶ月のことを思い出していた。ピンとした緊張感を覚えつつ、気持ちはとてもリラックスしていた。
学力試験で偶然一番になって、米園英梨華に勝負を挑まれて、それからいろんなことがあった。あの1位のおかげで、自分はいろんな人と出会えた。いろんなところに自ら足を進めることが出来た。校長室に行かなければ数美に出会わなかったし、真理にも会わなかった。小町にも文嘉にも、英梨華ともこんなに話すことはなかった。
ふう、と胡桃は鼻からゆっくりと息をはいた。
睡眠時間はばっちり取った。試験日の前日はよく寝た方が良いと、この間の試験で学んだ。寝不足だと頭の回転が悪い。万全の状態で、実力を出すだけ。
これまで、試験の日なんて憂鬱な1日に過ぎなかった。けれど今は違う。どれだけ自分の努力が試せるのか、ちょっと楽しみだった。
失敗しても大丈夫。
こうやって頑張ったら、きっと何かが得られる。あれだけ辛い思いをしたのだ。次また同じように上手くいかないことがあっても、そのときはもうちょっと冷静に乗り越えられる。採点された解答用紙を見ながら何がいけなかったのかを確認し、もう一度計画を立て直したら良いのだ。そうやって試行錯誤をしたらいい。そこには、今よりも一歩先に進んだ自分がいるのだ。
能動的に行動することを知った今の自分は、無敵なような気がした。自分のやりたいことを、計画してやる楽しさがあった。
「……んふふ」
体の底から突き出てくるような震えがきた。武者震いだった。思わず笑ってしまう。
『生物』の問題冊子と、マークシートが机の上に置いていある。
教壇の上のパイプ椅子に座っていた大貫が立ち上がった。胡桃は自分の腕時計で時刻を確認する。8時59分50秒。
ようやく始まりだ、と胡桃は思った。
「では、——試験始め」
一斉に問題冊子をめくる音が、教室に広がった。
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