私の記憶が咲くころに
@14th_MP
第1話 放任の一週間
私事で申し訳ないのですが、これはおおよそ20年前ほどの話なのです。あの頃ははまなすがまだ元気に走っておりまして、今よりもぐんと景気が良く、「青田買い」などが私たちの周りでは話題になっておりました。かくいう私はそういった物とは無縁なところにおりまして。というのもそれどころではなかった、というのが本音でありましょうか。あれはおおよそ3月も終わりのころだったと思います。
学生は特段金の枯渇する生き物で、特に僕のような仕送りの無い学生にとっては日常茶飯事であり、特段珍しくもなく、今日もこうやって同じ研究室の友と鍋を囲んでいた。
「そういや、お前さんは、まだ寮を出なくていいのかい?」
数少ない肉をかっさらいながら、飯島は僕に聞いてきた。
「いやぁ、まだいいんだよ。どうも僕には東京の空気はあわなんだ。」
負けじと試しに入れてみた肉団子をお玉と箸を使って根こそぎ器に入れた。以外にもこいつが人気だったようで、飯島は少し
「そういうお前はどうなんだい?」
「俺はもう明日にはここを出るさ。だから今日がお前との最後の晩餐って訳だ。」
奴が最後の具材を取ったのを見計らい、ジャーから白米を土鍋に入れる。4月からは自分で米を買わなければいけないのか、などと我ながらなかなか食い意地の張った思案をしていると、奴は一枚のメモ用紙を渡してきた。
「これ、なに?」
「俺の住所。俺さ、実家の米屋を引き継ぐことになったからさ。」
奴のその言葉には、ある種の諦めが見え隠れしていた。きっと彼のやりたいことが見つからなかった。僕はこの話題を早々に切り上げようとした。
「そういえばさ、卒業式の時の晴れ着の真冬さん、綺麗だったよなぁ」
どうにか奴の興味がありそうなワードをひりだした。その苦労が実ったのか、眼の色を変えて話に食いついてきた。
「だ、だよなぁ!俺も一瞬誰かと思ったぜ!本当に、馬子にも衣裳ってやつだよなぁ。」
悪態をつきながらも嬉しそうなのは、奴が彼女にほの字であることと、最後の最期でツーショットの写真を取れたからだ。うんざりするほど自慢してきたことを思い出し、僕はこの話題は悪手だったな、と後悔した。
だが、それとは裏腹に奴は思った以上に静かであった。
「おーい、なんかお前宛の手紙が届いているぜ。」
奴はどうやら目ざとく手紙を投函した音を察知したらしく、忠犬が如く手紙を取ってきてくれたようだ。
「手紙?誰からだろうか。」
もうすでに住所は東京の方へ移しているはず。顔を斜めに手紙を見ると、どうやら教授からの手紙の様だ。僕は奴から手紙を受け取り、早速封を切る。
どういった要件なんだろうか。様々な思考が頭の中で
君には悪いが、卒業見込棄却が提案された。一週間ほど猶予を与える。
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