メソロジア ~At the Beginning of Mythology~

夢科緋辻

第1章 界術師の街

0X / 前川みさきの選択

「ねえ、なぎ君ならどうする?」


 わたし――前川みさきは九凪君に訊ねた。

 決して逃がさないと言わんばかりに、彼の両眼を真っ直ぐに覗き込む。


「……どう、するって」


 九凪君は困ったように眉根を寄せた。答えに困っているんだろう。そりゃそうだ。あんな訊き方をされれば、誰だって簡単には答えられない。


 でも、わたしは九凪君に答えて欲しかった。

 彼を心の底から信じるために、彼の口から答えを聞きたかった。

 卑怯だって事は分かってる。自分がどうしようもなく心の弱い人間なのかは理解してる。

 こんな自分が、心底イヤ。

 だけど、これからの選択をする為には絶対に必要なんだ。


「答えてよ。九凪君なら、どういう選択をするの? ……何を、選ぶの?」


 わたしは少し強い口調で詰め寄る。

 声が震えないように取り繕うのに必死だった。気を抜けば、押し止めていた感情の奔流が溢れ出してしまいそう。心の奥底に溜め込んだ想いの全てを言葉に乗せてぶつけてしまいたい。そんな衝動すら感じた。


 九凪君は相変わらず答えてくれない。視線を泳がせながら、苦しそうな表情を浮かべるだけ。彼にそんな辛い想いをさせていると思うと、胸が張り裂けそうに痛んだ。


 だけど、お願い――答えて。

 わたしの望む答えを、あなたの口から聞かせて。


 自分勝手な願いを込めて見詰めていると、遂に九凪君が重たい口を開いた。


「――」


 だけど。

 その答えを聞いて。

 わたしは、どんな表情をしたのか分からない。


 ただ一つ。

 大きな絶望が心を黒く、黒く、染めたのをはっきりと感じていた。

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