第29話 電話(1)
あたしは、すっきりしない気分でリビングの
ソファーに腰を下ろしていた。
真柴の歯切れの悪い言葉が気に掛かる。
”フェイク―――偽物”
…確かにそう言っていた。
何を根拠に?
いずみさんは、自ら姿を隠したんじゃないの?
忍から借りた写真を前に頭を抱える。
ねぇ、いずみさん。あなたは今何処にいるの?
「ああ、駄目だ!」
声に出して叫ぶ。
落ち着かなくちゃ。
地下にあるカーヴにワインを取りに行こうと
立ち上がった時、携帯が着信のメロディーを奏でた。
『長瀬徹哉』
あたしの眉間にしわが寄る。
今更、何の用事があるんだろう。
真柴から、あたしに会う事を止められたんだろうけど
本当にいずみさんが心配なら、何と言われても自分で
来るべきよ。
断固無視してやる!
一旦はカーヴに向かいかけた足を止めた。
やっぱり一言文句を言ってやらないと気が済まない。
そう思い直し、乱暴に通話ボタンを押した。
「もしもし…あの、長瀬ですけど…姐さんですか?」
おどおどとした長瀬の声がする。
「そうだけど、何の用?」
あたしが突っけんどんに答えると、いきなり
「すいませんでした!」
その後、ゴトッという音がして、何も聞こえなくなった。
「もしもし?」
電話に耳を押し付けると、微かに声がする。
「…せん…どう…いま…でした…」
はぃ?
「もしもーし」
何度か大声で叫ぶと
「あ、はい!すいません」
「何してたのよ」
「え…土下座して、詫び入れさせてもらってました」
予想外の返答に、驚き、あきれ、つい笑い出してしまった。
TV電話じゃないんだから…
長瀬は、何故自分が笑われているのか分からないらしく
「あのぉ、姐さん…オレ何か変な事言いました?」
突っ込みどころ満載キャラに、怒る気も失せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます