第5話 出逢いの夜(2)
振り返ると、20代前半の二人組の男がグラスを持って立っていた。
派手なアロハシャツを着た男が、ニヤニヤ笑いながらあたしの隣に座った。
「俺達と一緒に飲まない?」
紫色のポロシャツを着た、小太りの男が、反対の席に座る。
「何飲んでるの?俺達がご馳走するからさ」
二人の男に挟まれる形になり、あたしは露骨に嫌な顔をした。
勧めもしないのに、勝手に座るな!
そう、怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえ
「ごめんなさい。あたし、ひとりで飲みたいの」
とやんわりと断る。
アロハ男が、あたしの顔を覗き込んだ。
「何?失恋でもしちゃったの?俺が慰めてあげようか」
ポロシャツ男がすかさず
「え~、こんなキレイなおネエさんを振るなんて、信じらんないな。
そいつ、アホだね」
と酒臭い息を吐きながら、大げさに首を振る。
いつ、誰が失恋したなんて言った!
男達を無視して、グラスのワインを呷る。
「わぉ、いい飲みっぷり」
そう言いながら、アロハ男がボトルのワインをジャバジャバと
グラスに注いだ。
滴が飛び散り、あたしのパールホワイトのワンピースの胸元に
赤いシミを作った。
「ああ、ごめんね」
おしぼりを掴んだ手が伸びてくる。
あたしは、その手を払い除け、冷たく一言
「大丈夫ですから」
と言った。
「そんなに怒んないでよぉ」
相変わらず、品の無いニヤニヤ笑いを浮かべながらアロハ男が
猫なで声を出す。
いきなり、ポロシャツ男が、グラスのステムに添えたあたしの手に
自分の手を重ねてきた。
全身にぞわっ鳥肌が立つ。
「おネエさん。色白いね」
アロハ男が、背中まで伸びたあたしの髪を撫でながら、くんくんと
鼻をひくつかせた。
「いい匂い。香水何つけてるの?」
―――――ぷつん
あたしに中で、堪忍袋の尾が切れる音がした。
もう、我慢の限界!
あたしは、立ち上がるとグラスになみなみと注がれていたワインを
二人の男の頭上にぶちまけた。
一瞬男達の動きが止まる。
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