第2話 第一印象
私は部屋を改めて見回した。飾りは派手そうに見えて、破損しても負担がかからないようにするためか、安物である。布団、机と共に旅館でよく目にするタイプだ。テレビは最新式ではある。
次にカーテンを閉めてみた。すると部屋は真っ暗になる。外がまだ明るいため完全とは言えないが、夜が来たら照明は必須のようだ。
段ボール箱を開けて、中からノートパソコンを取りだした。コンセントはあるが、ネット回線はない。それは事前に確認済みだ。パソコンを出したのはさっきの発作について、症状をまとめているワードファイルに追記するためだ。治療の役に立つかどうかは別にして、後で自分自身で確認してどんな症状がどんな状況で発生し、解決法はどうであったかを、今後のために頭に入れておく。
次に段ボール箱からタブレット端末を取りだした。パスワードを設定してないので、ボタンを押せば画面がすぐに立ち上がる。ホーム画面には、折れ線グラフが表示されている。グラフは右端だけ急激に上に向かっている。
「先生からの連絡は…なしですか。ふう…」
これは自分の心拍数だ。発作が起きた時だけ上がった。それは珍しくないことなので、主治医も心配していないようだ。
このタブレット端末は、他にも私の体に関する様々な情報が、リアルタイムで更新されている。そしてレッドゾーンに入れば、病院に通報される仕組みである。
携帯で時間を確認したら、あと一時間もすれば夜ご飯の時間だ。それまでに着替えや日用品を一通りキャリーバッグから取り出した。結構な時間潰しになった。
そして居間に移動だ。が、そこがどこにあるか教えてもらうのを忘れた。この真庭の家の間取りは、玄関からこの部屋に至る廊下程度しか知らない。
玄関に行けばわかるかもしれない。そう思って部屋を出た。そして廊下を少しずつ進んだ。
あれ、こっちで曲がるんだっけ…? 女将の後ろを追いかけていただけだったので、廊下の雰囲気すら頭に入っていなかった。私は、進むのを止めた。
私はふと横を見た。この屋敷の縁側が見える。外はもう真っ暗で、廊下の照明だけが光っている。
「ちょっと、どこに行こうとしてるの?」
私が縁側の方に行こうとすると、後ろから若い女性の声がした。私はすぐに振り返った。
「すみません。居間がどこか、わからなくて」
「こっちよ」
女性に腕を掴まれ、連れられて私は早歩きで進んだ。当然なことに私には、この女性に抵抗できるほどの力は無い。
女性は居間の戸を勢いよく開くと、
「さ、連れて来たわよ」
と言った。居間には真庭の家族が全員、席に着いている。
「さあ、颯武君も座って」
私は、主人が指差した席に座った。料理は豪華ではなかった。何が体に合わないかがわからないから、変なものは食べさせられないと判断したのだろう。私はいただきますと言って手を合わせて頭を下げると、箸を取って料理を口に運んだ。
「食べられないものとか、ある?」
女将が聞いたので私は、いいえと返した。
「なら、食べたいものはあるかい?」
今度は主人が聞いてきた。しかし私の返事は同じである。
さっきの女性とその弟と思しき男の子が話をしている。きっとこれがこの家のいつもの食卓風景なのだろう。ならそれを邪魔しようとは思わない。
「ごちそうさまでした」
私は夜ご飯を食べ終えると、そう言って食器を片づけようとした。しかし、
「それはこっちでやっておくよ」
主人が止めた。何もすることがないので私は部屋に戻ることにした。
颯武が居間から出ていった後、姉弟は待ってましたと言わんばかりにある会話を始めた。
「あの余所者、愛想悪いな。病人だか客だか親戚だかよく知らないけど、仲良くしようって考えが頭にないのか?」
弟が言う。何故なら弟は、食事中一度も颯武に話しかけられなかった、いや、一度も目が合わなかったからだ。
「アレは私のお見合い相手ではないのよね? なら良かったわ」
無口な男性は、姉の好みではなかった。
「せめて母さんと父さんの問いかけぐらいまともに答えろよ」
弟が一番気に食わなかったのは、一番大切な両親のことをアイツがないがしろにしたところ。
「しかもあの頭見た? 私よりも年下なのに、もうあんなに白髪生えちゃって」
「もし体調が悪くならなかったら、親に連絡して早めに帰ってもらおうぜ」
ワザと両親に聞こえるよう、大声で言った。他にも様々な文句を言った。
「葉子。ちょっと颯武君のとこにもう一回行ってくれない?」
母親が姉に言う。
「何でよ? 用なんてないでしょ?」
「お風呂何時ごろ入るか聞いて来て」
母は洗い物で手がいっぱいだ。仕方なく姉―
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