第6話:蔓延していく大志3
太陽が完全に沈んだ。静寂が暗闇を包む。
「今、何時くらいだろうな?」
「陽が沈んでだいぶ時間がたったし、九時くらいなんじゃないか」
カイトの言葉に覇気がない。きっとみんなもう悟っているのだろう。
「うえーん!」
「森野、泣いても事態は好転しないぞ」
「うえーん!」
泣き出したいのはこっちのほうだ。まさか何一つ干渉してくれないとは思っていなかった。
「まったく、先生もひどいな。今日言われてもできるわけないじゃないか」
「まあたしかに、元をたどればみんな先生のせいだしな」
「だいたいこの島についても説明不足すぎないか? そのかばんの中身だって……」
俺とカイトの愚痴は止まらない。今までせき止めていた何かが崩壊してしまった。
「教也くん、カイトくん、星海ちゃん……」
俺たち三人は一斉に春々のほうへ振り返った。
「いい加減にしなさいよ!!」
「……!?」
春々の怒声が響き渡る。どうやら何かが崩壊したのは俺だけではないらしい。
「なんでいつまでの他人のせいにしているの!? 今の状況が分かっているの!?」
「わかっているつもりではいるんだけど……」
それはきっと春々以外の三人は同じ気持ちなんだろう。
なんや言っても迎えが来るんじゃないかという可能性を捨てきれないこと。
「もういい! 私一人でつくる!」
春々は踵を返し、奥へと消えて行ってしまった。
静寂が再び俺たちを包む。
しばらくしてカイトが立ち上がり、春々とは逆方向に向かっていった。
「おい、どこへ行くんだよ?」
「ちょっと風に当たってくるだけさ」
そのまま振り返りもせずに海のほうへ向かっていってしまった。
「森野はどうするんだ?」
「私は……」
森野はこの島に着いてからずっと涙目だ。
その表情はいまだ回復の兆しが見られない。
「ちょっと一人で考えさせてもらえますか……?」
「あ、ああ」
森野は春々ともカイトとも違う方向へ歩き出した。
「さて、俺はどうするかな」
今春々の所へ行っても余計に怒らすだけだろう。
こうなったら覚悟を決めるしかない。
「そうだ、俺は忘れてたんだ……!」
それはいつも俺自身に言い聞かせていること。
どんな些細なことでも大志を抱かなければならないのだ。
「こんなんじゃあの時の先生に叱られてしまうな」
俺は一人その場で笑いだす。
すると何かが心の中で晴れたような気がした。
「よし、そうと決まればやることは一つだな!」
俺は残っていたヤシの木にナイフを切りつけた。
数時間後、ようやくその木を切り倒すことに成功した。
「さて、持っていくか」
俺はヤシの木を肩に担ぎ、奥のほうへ進んだ。
奥に行くとランプが辺りを照らしていた。
そこには三人の影が見えた。
「お前ら……」
もちろんそこにいたのは春々、カイト、森野である。
「平、なかなか来るのが遅かったようだね」
カイトのそばには一本の木である。
それは汚らしい断面をしていた。
「そうですよ、平さん。遅かったですよ。」
「森野、お前……」
森野のそばにも一本の木がある。
断面はカイトのものによく似ていた。
「初めて俺のことを名前で呼んでくれたな」
「まさかのそっちですか!?」
「冗談だよ、よっこらしょっと」
俺は持ってきたまるたを地面に置く。
それもまた彼らの断面とよく似ていた。
「教也くんなら来てくれると思っていたわよ」
「……ああ、遅くなってすまないな」
全員の目の前にまるたが一本ずつ用意された。
一人にしたらたったの一本だが、四人になると四本になるのだ。
「さて、こいつの出番かな」
俺はカバンの中からタコ糸を取り出す。
「あの、平さん……?」
「ん、なんだ?」
「いかだを動かすためにもパドルを作りませんか?」
「ああ、確かに」
いかだに乗っただけだとどこに流れ着くかわからないからな。
「じゃあ教也くん、いかだ組とパドル組に分かれるのはどうかしら?」
「ああ、そうだな」
とは言えどうやってグループを分けるのか難しい。
「じゃあ僕は春々ちゃんと……」
「教也くん、春々と組みましょっ」
「え、あ、うん」
いきなり腕をつかまれて不覚にもドキッとしてしまった。
ボディータッチ恐るべし。
「……星海ちゃん、僕と組もうか」
「なんかあまりものみたいで悲しいです……」
まあ何はともあれチームを分けることができた。
あとは作業を考えるだけだ。
「春々と教也くんは力があるからいかだを縛るわ。カイトくんと星海ちゃんはさっき作った小さないかだを解体してパドルを作ってくれるかしら?」
「お安い御用さ」
「わかりました」
森野とカイトはさっそくいかだの解体作業を始めた。
「さて、春々たちも始めましょうか」
「ああ」
俺はいかだにぐるぐるとタコ糸を巻いていく。
海の上でばらけたら大変なので何回にも巻いた。
「さて、じゃあ結んでいこうかね」
しかしここで俺は重大なことに気づく。
「そういえば教也くんってもう結べるようになったの?」
「……結べない」
そう、俺は紐を結ぶのが苦手で今でもマジックテープの靴を履いているのだ。
「ふふ、相変わらずなのね」
笑みを浮かべる春々とは対照的に俺の顔は熱くなった。
「誰にでも不得意っていうのがあるものさ」
俺は春々にタコ糸を渡し、結んでもらった。
できない俺からすれば大変器用なことで。
「昔はよく教也くんの靴紐を春々と紗枝ちゃんで結んであげてたわねー」
「……それ以来マジックテープの靴しか履いていないけどね」
妹の紗枝にも随分と迷惑をかけたものだ。
春々もずっと昔からそばにいてくれて今も俺のそばにいてくれている。
そんな春々に心の中で感謝したのであった。
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