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「今日は離任式で、さっきまで送別会していたんですよ」

「離任式、もうそんな時期ですか」

 そうか、新年度からは違う学校へ行くんだから今年度中に離任式があるわな。てかその単語凄く久し振りに聞いた気がする。

「吾妻さんは、変わらずこちらで?」

「はい。まだ居て良いって言ってもらえたので。独り身だから毎年飛ばされるのは覚悟しているんですけど、良かったです。また一年、マスターの酒が飲めますね」

「おや嬉しいことをおっしゃってくれますね。私こそ、また一年吾妻さんとお話しできると思うと嬉しいですよ」

 吾妻さんはくしゃっと笑うと、金色のカクテルが入ったショートグラスを傾けた。俺が独立してこの店を建てた年、彼もまたこちらに赴任して来て偶然来店されてからちょくちょくと顔を出してくれる。

「吾妻さんは学校で人気があるんじゃないですか?」

「あ、分かります?」

「ふふ。えぇ、だって男女ともにとっつきやすそうですもの」

 快活で元気が良くて、きっと子供たちの相談にも真摯に耳を傾けていそうだから。

「実際のところ、そうでもないんですけどね」

「え、そうなんですか?」

「難しい子も多いですからね。基本的に皆根はいい子なんですけど」

 そう言って苦笑い。うーん確かに、最近はモンスターペアレント、なんて言葉もあるくらいだしな。

「先生みたいな先生になりたい、なんて可愛いことを言ってくれる子もいるんですけどね」

「可愛らしいですね。それほど吾妻さんが素敵な先生ってことですね」

「はは、そうならいいんですけれど」

 細い脚を持って仰いだグラスは、すっかりと中身がなくなってしまった。

「俺も、そう思って先生になったんだし」

「そうなんですね」

「単純な話しなんですけど、中学生の時に担任の先生を好きになっちゃって」

「おや」

「先生になれば並べるかなって思ったって言う。今思えばアホみたいな理由でしたけど、その時のことがあったから今こうして先生していられるんだなぁって思うと、アホで良かったなって」

 くくく、と零した笑みにはどこか少年らしさも垣間見えて、可愛い人だなと思う。

「もしかしたら同じ動悸で先生を目指す子がいるかもしれませんね」

「そうですね、俺、イケメンですから」

 んー顔面偏差値の事は置いておいて、吾妻さんに憧れて先生を目指す子は実際いるんじゃないだろうかと思う。だってこんなにも素敵な先生なんだもの。

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