あの教室でもう一度
カゲトモ
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「こぉんばぁんわぁ」
夜が更けて来た頃、カロン、と扉のベルを鳴らせて来店したのはスーツ姿の男性だった。
「いらっしゃいませ、吾妻さん。今日もご機嫌ですね」
「酒は飲んでも呑まれるなってね。酒を飲む時は楽しく飲むことをモットーにしてるの」
「それはとても素晴らしいことですね」
一旦客足のピークが落ち着いたこともあって、両脇の空いたカウンター席に案内する。時間帯と雰囲気から見て三軒目か四軒目なんだと思う。多分、一緒に飲んでいた人たちを見送って一人でここに来たのでは。きっとそれなりに飲んでいるんだろうけれど、それでも足取りも呂律もしっかりしているんだからこの人は相当強いんだと思う。
「ほら、酒に呑まれちゃったら何しでかすか分かんないでしょ。もういい歳だし、自分が楽しく飲める酒の量を知っておかなきゃ。それに若い頃に手ひどく失敗したことがあったしね」
「若い頃って、吾妻さんまだお若いですよね?」
「もうアラサーですよ」
そう言ってニッと笑って見せる。白い歯が好印象で、学生時代はスポーツを頑張っていましたって感じの人だ。アラサーって言ったって俺よりは年下なわけで。確か三つくらい年下だったはず。
「大学時代の話ですからね。結構前ですよ」
「ちなみにその失敗とは、どのようなものなんですか?」
「ありふれたことですよ。気付いたら知らない女の人が横に寝ていたとか」
「え」
いかんいかん、つい声を出してしまった。それありふれてねぇから! リンくらいなら度々あるかも知れないけど、俺は一度だってないぞ! そんなうらやまけしからんこと!
「あとは店の中を荒しちゃったり、友達とケンカしちゃったり、大事なゼミに遅れたりね。記憶がないっていうのが一番厄介なんですけど」
「・・・それはそれは」
吾妻さん、学校の先生なのに・・・いや、別に学校の先生だから酒の失敗はしないなんてこと、ないんだけどな。うん、まぁ吾妻さんだしな。
「だからもう、酒は楽しく飲めるところまでにしようと決めているんです」
と言いつつも結構飲んでるじゃんよ。斉藤君をテイクアウトしていくのとかは勘弁な。もちろん俺も、なんて。
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