第30話「皆を呼んで導くもの、あいり」
眼の前にそびえる世界樹が、近付く。
巨大な
ようやくその
「
すぐ側には、盗賊の姿に戻った
そして、一緒に彼女を守るように、
だが、あまりにも周囲のモンスターが多い。先程ニュース中継で見た広場はもう、廃墟となって緑の森に飲み込まれていた。
人の姿はなく、
「見よう見まねだけど……やってみるわ!」
「無理すんなよ、千依!」
「わかってるわよ! ……せめて、これくらいしないと……アタシ、馬鹿だった。馬鹿やった。だからっ!」
大人気ゲーム、ハンティング・ファンタジアでも盗賊は人気職業だ。そして、一定範囲内のモンスターを同時に攻撃できる鞭はとても便利である。
女騎士エンジュとなった宗一は、千依の側でアイテムを使っての援護に徹する。
宗一のアカウントデータをそのまま使用しているので、回復アイテムにはことかかない。だが、それも徐々に減り始めて、補充のあてなどなかった。
なにより、宗一にはもう武器がない。
先程、千依を助ける戦いで壊されてしまった。武器が壊れることは、本来ゲームでは想定されていない。しかし、実際にデータとして失われてしまったのだ。
それなりのレアアイテムだったが、悔やむより先にやることがある。
「数が多いわね……デル? こうなったら」
「心得た! クククッ、我等は先程の千依との戦闘で、少しばかり消耗し過ぎた。だが!」
真っ直ぐ世界樹へと突っ込む一団の中で、戦士バズンと魔導師デルドリィードが立ち止まった。二人は追いすがるモンスターと戦闘しつつ、肩越しに振り返って叫ぶ。
「千依ちゃん! 宗一君をお願いね? アタシ達はここで敵を集めて足止めするわ!」
「そ、そんな! 真瑳里さんっ! ……アタシの、せい、ですよね」
「もち。でも、なんか悪かったなーって思うなら、宗一君を助けてあげて。そして、あいりちゃんもね。それでキミも、みんなの仲間……そうでしょ?」
「は、はいっ!」
真瑳里と三郎は、宗一達のためにここに留まる腹づもりらしい。
そんなことをすれば、二人は危険だ。
ゲーム内では、
そう思って戻ろうとした時、二の腕を
千依は真剣な表情で、前へと宗一を引っ張る。
「おいっ! 離せよ、千依!」
「離さない! もう、離さないから。二人のためにも、今は進もうよ、宗一!」
「でも」
「宗一の
「千依……」
その時だった。
一振りの剣が放られ、
だが、それを放り投げたデルドリィードこと三郎が、魔法を広げながら叫ぶ。
「我が友エンジュよ!
「えっ、でもこれって……」
「そう、全
真瑳里に背を預けて、三郎は高速で魔法の術式を組み上げてゆく。
彼の周囲に、魔法陣が広がりルーン文字が乱舞して埋め尽くした。輝くその中へと、モンスターが殺到する。真瑳里が操る巨漢の戦士が、
そして、三郎の掲げた両手に魔法の光が凝縮されてゆく。
「
光が、走った。
その先へと、宗一は後ろ髪をひかれる思いで走る。
周囲のモンスターが次々と消え失せる中、世界樹へと飛び込む。巨大な根が盛り上がる根本に、入口があった。恐らく、内部はダンジョンになっているのだろう。
一度だけ振り向くと……真瑳里と三郎は笑っていた。
その姿が、
魔剣ダインスレイヴを背に背負って、宗一は走った。
「宗一! 見て、この木の中……」
「なるほど、まだ東京ユグドラシルの
世界樹の内部には、荒れ果てたエントランスが広がっていた。
巨大ビルだった東京ユグドラシルは、まるで世界滅亡後に何万年も放置されてきたかのように荒れ放題。そして、そこかしこで緑の植物が生い茂っている。
文明を拒むかのような、その光景。
宗一は千依と一緒に、上へのエレベーターを探した。
「宗一、あそこ!」
「電源が来てればいいが……っ、危ない!」
殺気を感じて、宗一は千依に抱き付き、押し倒す。
先程まで二人が走っていた床が、音を立てて崩れ始めた。
そして、
その威容に、宗一は思わず絶句し、なんとか敵の名前を絞り出した。
「くっ、アーマードラゴン! 厄介な敵が」
「宗一、あれって強いの!?」
「普通は、最低でも4、5人のパーティで戦うモンスターだ。勝ち目はないが、無視してるとやられちまう!」
「……じゃあ、決まりだね」
千依が前へ出る。
その、悲壮感を滲ませた笑みに宗一は声を張り上げた。
「馬鹿野郎っ、
「宗一、アンタは行って! ……アタシね、今朝……あのあいりに会ったよ」
千依も宗一と同じだった。
小さな妖精のあいりが現れて、そして光が自分を包んだのだという。
だが、あいりは彼女に
宗一は千依を手で制して下がらせ、背の大剣に手を伸ばす。
最強武器の一角、魔剣ダインスレイヴならばもしや――
その時、無情にもシステムメッセージが走る。
『装備可能なレベルに達していません』
「……へ? お、おいっ! あれ? 鞘から……抜けない!」
『キャラクターのレベルが足りません』
「まじかよ、って……くそっ!」
魔剣ダインスレイヴは、鞘から抜けなかった。
そして、アーマードラゴンは容赦なく襲ってくる。
身を投げだして、再びの回避。
問答をしている
そう思った、次の瞬間だった。
「阿南先生、邪魔です。どいてください」
冷たく冴え冴えとした声には、聞き覚えがある。
そして、閃光が光の
何者かがアーマードラゴンに、強烈な飛び蹴りを放ったのだ。
クレーター状に床が崩れる中、アーマードラゴンの絶叫が響く。そして、宗一の前には二人の女声が背を並べていた。
その片方、チャイナドレス風の防具を纏った眼鏡の女性を宗一は知っていた。
「あ、あれ……? もしかして、
「やあ、宗一君。……その声、宗一君、だよね? 随分凄い格好を……まあ、男の子だもんね」
「わたくし達はあいり
無手の格闘術で戦う
二人もゲームのアカウントを持っていたとは意外だ。
そのことを口にしたら、華梨と要は照れくさそうに顔を見合わせる。
「華梨はほら、メイド長だから。あいり御嬢様がどんな遊びをしてるか把握しておく必要がありますわー、って。あと、僕はそのお付き合いかな」
「要さん、無駄口はそこまでです。さあ、阿南先生! そちらの子も……エレベーターは止まっていますわ。階段を使います!」
華梨が身構え、引き絞る手と手に光がスパークする。
彼女が
かなり高レベルの必殺技で、随分とやりこんだようだ。
宗一は千依に二人を援護するように言って、抜けない剣を
「こうなりゃ大盤振る舞いだ! 二人共、回復は俺に任せてください!」
「サンキュ、宗一君。じゃあ……当たると痛いよ? 華梨、下がってて!」
要が片手で槍を振りかぶり、
巨大な光の矢となって、彼女の一撃がアーマードラゴンを貫いた。
強敵をあっさりと撃破したのを見て、宗一はふと気付いた。それは希望的な憶測かもしれないし、偶然かもしれない。だが……このAR空間の強さは、元のゲームのキャラクターの強さだけじゃない気がする。
要と華梨の強さを見て、ふとそんなことを考えてしまうのだった。
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