第10話 異世界の食事なんて認めない
言われるがままに部屋から出ると焼けるような日差しに思わず目を細める。
うわ…… ほんとに砂漠地帯って暑いんだな…… まぁ当たり前か……
ジト目で神父の爺さんを見れば相変わらずの目立つ暑苦しい長袖の青い服。
いや、違う!! コイツ服の素材をメッシュにしてやがる!!
通りで妙に体のラインに沿ってぴっちりしてるなと思ったわ!
だが頑なにその神父スタイルは貫き通すんだな……
「ダージェフ殿、昨日の件忘れてはおらぬだろうな?」
「もちろんですぜ、フェデリアの旦那」
暑苦しい笑顔を振りまく二人を後ろから眺めながら思うのだ。
コイツ等いつの間にこんなに仲良くなったんだ?
この街は石造りの建物が多い、どれも砂漠特有の日差しを遮るもので日陰に入ることができればそれなりに涼しい。
砂の音が鳴り、歩きづらい街道を付いていくと人だかりを目にする。
「おーい。 救世主をつれてきたぜー」
ダージェフは人だかりに声を掛けると皆が一斉に振り返る。
「あ、昨日の奴じゃねぇか、早くこっちへ来いよ」
「早く座っておくれ、ほらアンタ、運んでやりな」
大きな石英だろうか白い石を囲むように皆が食事を並べている。
どうやら朝食というのはここでとるのだろう。
よく見れば給仕を行っているのは女性や主婦の方が中心で男衆は食事を今か今かと待っている状態だ。
「俺らアスレ=チック団はいかなる時も一緒だ。 飯を食う時もな」
「がははは、おうよ。 ささ、座んな座んな!」
手荒い歓迎を受け、空いている石の椅子へと腰掛ける。
そういえばこの世界に来てから食事をとっていなかったことに今更ながら気づく。
そうか、初の異世界の食事か……
思わずごくりと喉を鳴らす。 こういった異世界らしいイベントはテンションが上がるものだ。
瞳を閉じ、漂ってくる香りに心の期待が高まる。
何が来るんだ? 分厚いステーキだろうか。 それとも魚料理か? はたまた異世界といえばシチューのようなものが出たりするのか?
「はいよっ! お待ちどうさん!」
さぁ、目を開けて異世界の料理を目にしようじゃないか!
「あれ?」
目の前には確かに美味しそうな匂いを放つ異世界の料理。
カラッと揚げられた豚肉を卵でとじ、ちらりと見える白いお米。
紛れもなくこれはカツ丼だ。
ここ、異世界だよね?
思わず何度も凝視する。
なんで日本食があるの? いや、カツ丼好きだけど。
でも朝からはちょっときついかななんて思ったりもするけども。
恰幅のいいおばちゃんは笑いながら答える。
「初めて見た顔をしてるねぇ、これはこの街の郷土料理キャッツドンっていうのさ」
いやいや、めっちゃ見たことあるんだけど。
それに…… キャッツドン? 猫丼? アウトですアウト。
「仲間になった記念だ。 俺の分もやるよ」
「おう、俺もだ」
「んじゃ俺も」
競い合うように俺のどんぶりに次々とカツが、いやキャッツが山のように乗せられていく。
「俺は大食いチャンピオンか!! 朝からこんなに食えるか!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、人気者じゃのう」
ジジイ! めっちゃ食べるの汚っ!? 零れてんじゃん! 額にご飯粒つくとかどうやって食べたらそうなるんだよ。
「食事中そのままで聞いてくれ」
視線を声の主に向けると、昨日見たアスレチック団のリーダーの女性。
青い髪のポニーテールが良く似合う大人の女性。
たしか名前は…… そうだレイファさんだ。
「我らはついに新たな力を迎え、これより目前に聳えるダルンダルン要塞へと向かう!」
何だろうここの人達のネーミングセンスは壊滅的なんじゃないだろうか。
要塞なのに警備が薄そうなんだが。
周囲から歓声が上がる。
「いよいよこの時を待っていたぜ」
「ああ、俺らの力を見せてやる」
意気込みは十分と言ったところ。
俺以外は。
俺、昨日初めて武器持ったばかりなんですけどー。 初心者なんですけどー。
ダージェフが笑いながら話しかける。
「緊張してんのか? なに、ダルンダルン要塞は帝国から離れた要塞、ここにいる警備共はみんな人間だ」
あ、ターミ〇―ターじゃないのなら、希望が持てるかって持てるかァアアア!!
こちとらナワバリバトル経験しかないんじゃぁあ!!
「まずは我らの希望であるフェデリア殿を紹介する」
いつの間にアイツ移動したんだ……
壇上のような石の上に立つ神父ジジイ。
その顔はやけに誇らしげな表情を浮かべる。
その顔ムカつくな。 額の米粒付いたままだし。
「儂らが来たからには安心してくれて構わん!! 泥船に乗ったつもりでいてくれい!!」
それ沈むな。
全員道連れで死ぬ奴だなそれ。
「フェデリア殿は凄まじい力を持っているお方だ。 少しでも構わない、その力の一端を私達に見せてはくれないだろうか」
「うむ。 いいだろう」
神父ジジイは手を広げ力を込める。
「はぁあああああ! 来てます。 来てますよぉおお」
お前はMr〇リックか!!
すると何という事でしょう、見る見るうちに重い石のテーブルが徐々に持ち上がっていく。
まじでか!? そんなマジックみたいな…… ん?
周囲が歓声に沸く中、日差しに照らされ一瞬ロープが見えた気が……
まさか……
上を見上げれば確かにわかり辛いがロープが張られて、その先を辿れば顔を真っ赤にしたダージェフが滑車を回している姿。
や、やらせだぁああああああ!!!
ずずんという鈍い地響きを響かせ、石のテーブルは元の位置に戻る。
「ど、どうですかな…… 今のはほんの小手調べ程度じゃが」
何疲れた顔してんだよ。 唸ってただけじゃねぇか。これ頑張ってたのはダージェフだからな!
歓声は渦を巻くように沸き上がり、熱気は最高潮となる。
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