第11話 作戦が大雑把なんて認めない

 周囲からは期待の声や、爺さんのコールが響き渡る中、複雑な心境でキャッツドンを口にかき込む。


 何故そこまで誇らしげな顔してんだよ。



「フェデリア殿は我がアスレ=チック団の切り札として活躍してもらう予定だ」


「儂が…… 切り札じゃと!?」


「ああ、きっと奴らはこの未知なる力に恐れおののき、尻尾を撒いて逃げ出すことだろう! 我らの悲願も近い!」


「「「「うおぉおおおおお!!!」」」」



 熱気が渦の如く沸き上がっていくのに対して爺さんの顔色は悪くなっていく。



「まずはダルンダルン要塞への侵入案だが、奴らは定期的に物資のやり取りをおこなっているな。 献上品だかなんだか知らんが奴らは私達に高価な品は不要だと言って定期的に物資を奪っていく。 今回はそれを逆手に取る」



 なるほど…… 帝国はそういう事もしてるのか。 そりゃ嫌われるわな。



「積み荷に偽装し、侵入。 そこからはおのおのなんやかんややって要塞の主導権を取ってくれ!」



 大事なところが大雑把!! 作戦行き当たりばったりかよ!!


 なんやかんやって適当すぎるだろ。



「俺達は難しい作戦なんて必要ないのさ。 最後には強い奴が勝つってもんだ」


「ああ、結局決めてもそれ通りに行くためしなんてないしな!」



 の、脳筋しかいねぇ!?


 急に不安になってきたんだが、いや、最初から不安しかなかったけども!?

 俺まともに武器扱ってないしな!!



「そしてこれが私達が入る積み荷だ!」



 レイファさんが振り返り大きな布を取り払う。

 それ、カーテンかと思ったんだけど…… まさかそこに最初からあったなんて……


 ん? あれは…… まさか!?


 布はばさりと大きな音を立てて地面へと落ちる。


 レイファさんが用意した積み荷。

 人一人分程の高さのある茶色い段ボールのような素材、真ん中にはでかでかとロゴが入っている。

 


AMASAN


 

これもパクリやないか!? なに? アマサンって、完全にアマ〇ンじゃん!!  たしかに荷物送られてくるとき買った商品よりも異常なほど箱がでかいけど!!



「この大きさならば人が数人入っていても気づかれまい」



 む、無理があるんじゃないか? これなんて説明するんだ?


 どや顔で披露するレイファさんが可愛くて反論できん。 まさかのポンコツリーダーだった!



「画期的な案だろうダージェフ。 お前も箱を用意したんだろ? 見せてやれ」


「おお、そうだったぜ」



 ダージェフは思い出したかのように台座を動かし中を漁る。


 まさかの床下収納!?


 そして出てきたのは色とりどりの可愛らしくリボンでラッピングされた箱であった。



「少し時間があったから凝っちまってよ」



 照れながらダージェフは一個一個大事そうに取り出していく。


 お前は乙女か!? 何可愛くラッピングしてるんだよ! 明らかに目立つじゃねぇか!! なに、プレゼント交換でもするの? クリスマスなの?



「たいした技術じゃのう。 さすがはダージェフ殿」


「はっはっは。 あんまり褒めんでくださいよフェデリア殿」



 えーと…… アマ〇ンの箱にプレゼント箱か……


 そっと肩を叩かれ、何事かと視線を見上げる。



「交渉は君にお願いしたい。 私達では顔が知られている。 なるべく君のその平凡そうな個性もなく特徴もないどこにでもいそうな普通の顔が必要なんだ」



 ねぇ、泣いていい?



「それならば湊以上の適任はいないぞい。 よかったのう平凡な顔で」



 今すぐその髭を引き千切るぞジジイ!!



「間もなくその要塞からの使者が来る。 皆配置に付け」



 えぇえええええ!? ちょっと待って、まだ俺何もいいとも言ってないよ。

 そもそも大雑把すぎてなにやるかもいまいちわかんないのに!?



「検討を祈るよ」


「え、いや…… ちょっと……」



 声を掛けようとしたがスタスタと早足で去っていくレイファさん。

 嘘だろ!? 最後の方走って行ったぞあの人……


 

 周囲を見渡せば次々と箱に入っていく人達。


 おいおいおい!! 一番需要なとこ丸投げしやがった!?


 交渉事!? この俺が? Why? どうしてこうなった?



「後は頼むぞ」


「頑張れよ」



 次々と俺の肩を叩いて箱へと乗り込む男達の顔はまるで戦場に向かう戦士のよう。

 ただ、乗り込む先が可愛いラッピングされた箱なんだが。


 一人取り残され、途方に暮れていると一人の小さな少女が駆け寄ってくる。

 おさげな茶色の髪に小綺麗なコートに身を包んだ小学生みたいな少女。

なんだろう。 間違って入って来ちゃったのかな?



「貴方が選んでくれるの?」


「え?」


「いや、だから。 定例の献上品を取りに来たって言ってるの。 言葉わかる?」


「え!? この子が!? 子供じゃ……」


「殺されたいの?」



 刺すような視線に思わず凍り付く。

 見た目は子供、頭脳は大人な子だ。

 というか口悪いなこの子……



「まぁいいわ。 早くしてちょうだい。 そこの荷物を積めばいいの?」


「あっ、そうです」



 お、理解が早くてたすかるな。 このまま運んでくれれば万々歳だ。



「ん…… 結構大きいのね、中には何が入ってるのかしら」


「こ、工芸品とかですかねぇ……」


「ふぅん。 ちょっと見るわね」



 見る!? まずいまずい!おっさんだらけの詰まった箱の中を見られたら終わる。 間違いなく殺される!!



「ふぁっ!? い、いやそれはよくないんじゃないですかねぇ」

 

「どうして? 一つ少し見るだけよ何も中身を取り出そうなんて無粋な真似はしないわ。 それとも…… みられたくない物でも入ってるのかしら?」



 やばいやばい!!この子感が良いぞ。



「しょ、しょんなことないです」



 やっちまったぁああああ!ここで噛むとか何してんだぁああ!!


 少女は薄く笑みを浮かべるとアマ〇ンの箱へと近づいていき徐に上を剥がした。


 わあああああああああああ!?



「これは人形かしら? 随分精巧に作られているのね」



 ちらりと隙間から見えるのは神父ジジイ。 息を止め、瞳を閉じる姿はたしかに人形に見える。 そもそもこの世界にこんな格好のジジイいないからな。



「いいでしょう。 運んでくださる?」



 少女が声を掛けるとぞろぞろとガタイのいい男達が箱を持ち上げ、どこかへ運んでいく。


 なんとか危機は去ったという事だろう。



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