第8話 試し撃ちなんて認めない
気持ちは晴れやかになるどころか生憎の曇天模様。
床の模様を見ながら項垂れるように案内してくれるダージェフという大柄な男の後へと続く。
「ここでなら試し撃ちができるはずだ」
「もう、何でもいいです」
手に持つのは硬質な金属製の武器、名を【すぷ〇ちゃー〇ー】というあの任天堂の有名ゲームのパチモンの武器。
古い電灯の灯りをつけ、埃っぽい部屋には人を模したような人形がポツリと置かれている。
いや、人形なんて生易しいものなんかじゃない!! あれは紛れもないダッ〇ワイフだ!!
「ふむ。 あれは随分使い込まれておるのう」
そんな情報いらんッ!!!
部屋間違えてませんか? これ絶対あの爺さん達が使った奴じゃ……
急に背筋が凍るような寒さを感じる。
「んじゃ、まずは説明するからよ」
ダージェフは気にした風もなく出来の悪いダッ〇ワイフを掴み、中央に固定されている木の棒へ深く突き刺した。
わぁああ!? 何処に刺してん…… 急にR18みたいな……
いや…… どちらかというとスプラッタに近いな……
ダッ〇ワイフは見事に脳天まで貫かれており、だらんと力なく垂れ下がる。
ボロボロのダッ〇ワイフがまるでこちらを恨めしそうに見ているようなそんな恐怖に駆られる。
ホラーだよ!!
「まずはこの武器【オートナート】には射程距離がある。 だいたいここから、ここまでだな」
ダージェフは固定されているダッ〇ワイフから距離を取る。
およそ五十メートルぐらいだろうか、銃なのに意外と短いな……
ダージェフは【オートナート】を構え、スコープのような物を覗き込む。
すると【オートナート】の先端から赤い光が真っすぐ伸び、ダッ〇ワイフの眉間に当てられる。
「これが標準だ。 そしてこれをこうして引き金を引く」
ガチャリと【オートナート】のおそらく側面に当たる部分を引き出し、弾の代わりである【プレート】をはめ込むとダージェフはその引き金を引いた。
ずどんという鈍い音を立てて刺さっていたダッ〇ワイフの頭部がはじけ飛ぶ。
わぁぁあああ!!!ダッ〇ワイフさぁああああん!!!
え、威力高すぎない? 一発がショットガンなんだけど……
そういえば最初にこの人達に向けられてたのはこれなんだよな……
危うく頭と体がサヨナラするところだったんじゃん!!
怖い、怖すぎるよ異世界!!
「装填する【プレート】や数によってまた色々と変わってくるが、基本はこの通りだ。 まぁ習うより慣れろだ。 構えてみろ」
引きつった笑みを浮かべ、言われた通りに【すぷ〇ちゃー〇ー】を頭部を失ったダッ〇ワイフへと構える。
「違うな。 構えはこうだ」
そっと俺の手を掴み、後ろから覆いかぶさるように大男のダージェフが迫る。
「だぁあああ!!! 離れろッ!! 鼻息でまるわかりじゃぁああ!!」
「っつ!? お、俺は別に…… 触りたいってわけじゃ…… ねぇから」
この能力厄介すぎる!! 隙あらば触ろうとしてくるんだが!!
赤面し、そっぽを向く大男。
そんなツンデレ俺にはいらん!!!
「のう。 これでよいかのう?」
「全然よくないわ!! クソジジイ!! 俺を狙うんじゃねぇ!!! あっちだ!!」
【オートナート】の標準が俺の眉間へと向けられたのを咄嗟に避け、クソジジイの顎を思い切り掴む。
「おっと手が滑ったわい」
ドパンと甲高い音が響き、俺の横を死の風が通り抜けていく。
「おい、今隙あらば殺そうとしたよな?」
「軽いジョークじゃよ。 ふぉっふぉっ、随分楽しそうにしていたからのう。 混ざりたくてのう」
もじもじすんな!! え、なに、まさかお前もこの能力の影響とか受けてるの!?
「まさか…… 爺さん……」
「何気色悪い顔で見ておる。 儂はその影響など受けん。 勘違い御苦労様じゃのう」
コイツ……!! 絶対泣かす!
絶対だ!!
憎たらしい笑みを浮かべた神父ジジイはキリッと佇まいを直すと【オートナート】をしっかりと構える。
なぜだかそうやっていると歴戦の死の淵を潜り抜けて来た猛者のような雰囲気を醸し出す。
「まぁ見ておれ」
プレートを素早く差し込み、息もつかぬような早撃ち。
しかも速すぎて目で追えないほど。
銃声は二発。
あの一瞬で二発も撃ったのか!?
慌てて視線を無残なダッ〇ワイフへと向ける。
その姿は頭部を失ったあの時のまま、変わった事はどこにも見られない。
「あれ…… おかしいのう」
すぐにまた構えなおし、続けて爺さんは撃つ。
今度は先ほどよりも速い。
銃声はまさかの三発。
慌てて視線をダッ〇ワイフへと向ける。
無傷だ。
こいつ…… 下手くそだぞ!!
よく見ればすべて地面へと着弾しているようで、わずかに抉れている。
早撃ちやめたら?
「な、なに外したのはわざとじゃよ、儂の事はいいからお主がやってみい」
あ、逃げたな。
そもそもこの【すぷ〇ちゃー〇ー】がこれと同じだとは考えにくいのだが。
えぇと、プレートを挿入して引き金を引くんだっけか……
スコープを覗き、標準を合わせる。
緊張と興奮が入り交じる瞬間。
指が引き金に触れ、震えながらも引き金を引いた。
ドパン!!
大きな音と共に出たのは銃弾の弾ではなく、紙吹雪と色とりどりのリボン。
は?
「ああ、すまんすまん。 それパーティ用のプレートだったわ」
一緒にするな!! パーティ用もこれで行ってんの!? 間違えたら死人がでるぞ!!
まさかクラッカーの役割もこなしてるのか、これ。
「代わりはこっちだ」
手渡されたプレートを受け取り、再び構えなおす。
緊張と興奮は既にどこかへ行ってしまった……
スコープを覗き、狙いを定め、引き金を引く。
「うおっ!?」
その衝撃と反動で大きくひっくり返る。
まるで何かが崩壊したかのようなそんな衝撃に唖然となる。
それもそのはず、狙っていたダッ〇ワイフは跡形もなく吹き飛び、壁には大きな穴が空いているのだから。
それを確認したのは自分の身体が宙に浮いているのを錯覚していた時だった。
衝撃で吹き飛んだ体はまるでピタゴラスイッチのように、廃材を倒し、パイプをへし折り、支えとなっていた天井が落ちてくる。
あ、死んだ。
落ちてくる瓦礫を見上げ意識を手放した。
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