空を見る海
和泉海
第1話 大教室の聖域
星が海に振り、黒い波がきらめく
波が星を溶かすころ、光は空に眠る
その人はいつも遠い目をしている。
彼はどこを見ているのかわからない。
その人物はいつも外が見える窓側の席にいる。前髪が少し長めにされているせいか、目元は暗くてよく見えない。しかし、いつもただ遠くを、見ていることだけがはっきりとわかるのである。
見た感じ、服装はいつも大体おなじで、すっきりしたシルエットのコットンパンツに白のシャツ、左手に時計をしている。その時計はかなりいいものにみえる。
一般的に大学での休み時間や授業の空きコマの時間は友達と過ごしたりスマホでSNSをしたり、課題を進める真面目なやつらだっている。
でもその人は、いつもぼんやりと頬杖をついて遠くを見ている…周りはあまり見えていないようだ。
加えて、人間離れした近づき難い雰囲気をまとっているため周りに人はいない。
「おーい!宙、なぁにぼんやりしてんだよ。」
俺は名前を呼ばれて我に返る。
「ん?おう。別にぼんやりしてないけど。」
「なんだよ、かわいい子でもいたのか?…ん?あいつ高瀬じゃん。法学部の。」
俺に話しかけてきた親しみやすい声の男は言った。
「たかせ?お前あの人の事、知ってるのか?」
話しかけてきたのは高校時代にクラスが同じだった友人の斎藤だった。斎藤はこの大学内では大所帯のサッカーサークルに所属しているため、知り合いもたくさんいるし、情報量も多い。
「ああ、噂になってるんだぜ。あいつの前髪のに隠された瞳を一目でもみたら恋に落ちるって。
ミステリアスな雰囲気も相まって、女子たちからすごい人気なんだ。」
「へえ、そんな人間実際にいるのかねぇ。」
確かにあまり近くで見たことはないが、整ったきれいな顔をしている。
「まあ本当かどうかは知らないけどな。3年生で成績優秀、おまけにあのルックスときたらまあ目立つよな。
いつも聖域って感じの雰囲気をまき散らしてるから簡単には近づけないみたいだけど。」
そう言って斎藤は笑う。歯を思いきり出して笑う顔も女の子から人気がなくはないと思うのだが、サッカーバカすぎるためか全くモテない。
そんな笑顔のまま斎藤は俺の隣にどかっと腰を下ろす。
「一緒に授業うけようぜ。」
「もちろん、いいよ。」
俺も微笑んだ。
そうだ、授業くらい誰の隣に座ってうけてもいいんだし、高瀬…さんの隣に座ってみてもいいと思った。
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