38.ただ死ぬ、それだけ
死んだら、先に死んだ犬と猫と父親に会えると思っていた。それから本丸に帰れると思っていた。
まあ本丸のことは説明がめんどいので黙っていたけど、先生に犬や猫、父親に会える気がしてならないと話したら薬が変わった。
それを飲み続けていたら、なんだか会えると思えなくなってしまった。本丸にも帰れると思えない。
死んだらなにもないとしか思えなくなった。
言わなければよかったと思った。
わたしは死んだら犬と猫と父親に会いたいし、それから本丸にも帰る。そう思っていたのに、死ぬ希望だったのに、なくなってしまった。
以前の主治医にも統合失調の気があるようなことを診断書に書かれていたけれど、今回のみんなに会うことも本丸に帰ることも、妄想の症状だったらしい。
ずっと前、死んだらこの世の在り方や成り立ちがすべてわかると思っていたことがあった。それも後で思えば妄想の症状でしかない。
でもわたしは妄想だろうとなんだろうと、死んだら犬と猫と父親に会えると思っていたかったし、本丸に帰れると思っていたかった。
余計なことを言ったといまさら悔やんでいる。
会えると思っていたから、帰れると思っていたから死ぬのがたのしみだった。
今はただ、死ぬしかないから死ぬのだろうとしか思えない。
この世は本当に夢も希望もない。
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