29.安楽死

飼い猫が癌になりました。もう転移がひどくて手の施しようがないそうです。もって数ヶ月単位、覚悟をしてくださいと言われました。

転移する場所が悪くて腸管をつぶしてしまったり胸を苦しくしてしまった場合は安楽死とも言われました。私は頷きました。

腸管がつぶれると吐いてばかりになって食べられない、飲めない状態になるし、胸に転移すれば呼吸困難になる。それは大変に苦しいでしょうから楽にしてあげることが猫のためになるだろうと私は考えています。

そのようにペットは獣医さんと飼い主の考えで安楽死することができます。

でも、人間はできません。

人間だってできたっていいはずだと私は思うのです。手の施しようがなく、死ぬのを待つだけの状態の人だっているでしょうし、その人がこれ以上苦しむ前に楽になりたいと考えるのがおかしいとは思えません。

少なくとも私は安楽死したい。

そのような病気でなくとも、歳をとって自分で自分の下の世話もできなくなることもあるでしょう。家族のことがわからなくなって疑心暗鬼に陥って、家族や介護士さんに噛み付くこともあるでしょう。そうなる前に安楽死したい。私という人間の尊厳を守りたい。

長生きは良いことかもしれませんが、長ければそれでいいとも思えないのです。

私は飼い猫が安楽死ということになったら泣くでしょう。苦しむでしょう。けれど、病気で苦しんでいる猫を見て無理に生かしているのではと感じるのも泣くほど苦しい。猫に意思を聞くことはできませんから私たち飼い主が判断するしかないけれど、私は安楽死を選びます。

人間にも安楽死が選べていいはずです。尊厳が守れていいはずです。意思を尊重されていいはずです。

早く日本でも安楽死が選べるようになりますように。

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