第一章 未知との遭遇 6

「いや、来ないで!」


 俺が急いで家から出ると恐竜が地面に座り込んでいる神崎の方へと向かっていった。


「神崎!」

「陽太君……!」


 俺が神崎の事を呼ぶと神崎は俺に気付いてこちらを見た。


「神崎、そこから逃げろ!」

「駄目……体が震えて思うように動けないの……」


 どうやら神崎は恐怖のあまり体が震えて動けないようだ。

 その間にも恐竜は神崎へと近づいてくる。


「くそっ! どうしたら……」

『ヨウタ、落ち着け! このままだと彼女が危ない! こちらに気をそらして誘導するんだ!』


 俺の右手で持っているスマホからグレンの指示が聞こえてくる。


「だけど、どうやって……」

『なんでもいい! 何かを投げてこっちに気をそらすとかだ!』

「くっそ! 何か投げろって言われても……」


 俺は何か投げられる物が無いかと辺りを探す。

 そして、俺の右肩に掛かっている鞄を見て思いつく。


「よし! これなら!」


 すぐさま俺は左手で右肩から降ろして鞄を持ち、


「このやろぅ!」


 と叫びながら鞄を思いっきり遠心力つけて恐竜へと投げた。

 焦っていたせいで利き手じゃない左手で投げてしまったがなんとか鞄は恐竜へと当たった。

 鞄が当たると恐竜は俺の方を見る。


「俺が相手だ! 来い!」


 俺は虚勢を張りながら恐竜をこちらへと誘導する。

 恐竜は相手を神崎から俺に変えたのかこちらへと振り返った。


「よし、こっちを向いた!」


 俺が誘導に成功したと思ったその時だった。


「————!」


 いきなり恐竜は叫び始める。

 その叫び声に俺と神崎は耳を塞ぎながら恐竜の様子を見ていた。

 すると、恐竜は叫ぶともに色彩が段々とはっきりしていき姿も変わっていく。

 そして、叫び終わった頃には体中の所々に岩石のような鱗がある恐竜がそこに居た。


「何だ!? あいつは!?」

『あいつは恐竜!』


 耳を塞いでいる手を放した後、俺は姿が変わっている恐竜を見て驚きを隠せなかった。それと同時にスマホからグレンはあの恐竜の名前らしきものを叫んだ。


「グレン、あいつを知っているのか!?」

『知ってるも何もあいつは俺の探している仲間だ』

「えぇ!?」

『けど、なんであいつには実体があるんだ? それになんか様子がおかしいような……』


 グレンが疑問を言いながら話していると恐竜の岩石のような鱗が光りだした。


「何だ?」

『まずい! 避けろ、ヨウタ!』


 グレンがよけろと言った瞬間、恐竜の岩石のような鱗が俺に向かって発射した。


「あぶねぇ!」


 その光景を見て焦った俺は急いで発射した鱗を避ける。

 間一髪、俺は避けきれたが俺の後ろにあった家の壁は簡単に壊れてしまった。


「あんなのまともに喰らったら本当に死ぬぞ……」


 俺は壊れた壁を見ながら、恐竜の攻撃が恐ろしくなった。


『あいつはさっきみたいに自分の体の岩石の形をした鱗を相手に向かって放つ事が出来るんだ。しかも、厄介な事にあいつの鱗はすぐに再生する』

「ま、まじかよ……」

「陽太君、逃げて!」


 俺がグレンの説明を聞いていると神崎の忠告が聞こえた。

 振り返ってみるとそこには形や大きさが違う無数の鱗がこちらへと飛んできているのが分かった。


「やばっ!」


 俺は必死に鱗を避けていくがそろそろ体力の限界が近いのか動きが鈍くなっていくのが分かる。


「グレン、あいつの対策は何かないのか!?」

『ある程度すればあいつの鱗は再生が遅くなる! それまでは耐えるしかない!』


 俺はグレンの対策を聞きながら無数の鱗を避ける。

 要するに俺かあいつの限界が先にくるかでこの状況は変わるのか。


『ヨウタ、危ない!』

「えっ……」


 俺が考え事をしているとグレンの忠告が聞こえてきた。

その瞬間、鱗は俺の目の前に飛んできていた。

 そして……。


「いっつ!」


 俺はうまく避けきれず、左足に鱗がかすって地面に転んだ。

 そのせいで右手に持っていたスマホが手放され、俺の近くの地面に落ちる。


「陽太君!」『ヨウタ!』


 神崎とグレンの声が聞こえてくるが俺は足に来る痛みのせいで返事が出来なかった。

 すると、恐竜は俺の姿を確認した後、また鱗を発射する準備を始めた。


「……ま、まずい」


 足から血がじわじわ出てくる中で何とか立ち上がって逃げようとする。

 だが、足の痛みのせいで思うように動けなかった。

 すると、恐竜の体に小石が当たった。


「こっちよ……! 化け物……!」


 小石を投げた方を見ると神崎が震えながら恐竜を誘導しようとしていた。

 恐竜は一旦、鱗を発射するのを辞めたのか光が弱まっていった。

そして、神崎の方に体を向ける。


「神崎、やめろぉ!」

「ほら、こっちよ……!」


 俺がやめるように忠告するが神崎は誘導をやめようとしなかった。

 恐竜は神崎を狙いながら鱗を発射する準備を始めた。


「くそっ! どうすれば……」

『君はどうしたい?』


 俺が項垂れていると地面に落ちてる俺のスマホから誰かの声が聞こえてきた。


「グレン、さっきの声はお前か……?」


 俺はスマホを拾いながらそう尋ねた。

スマホの画面を見ると俺は通話画面になっている事に気付く。


『ヨウタ! 誰かが勝手にヨウタのスマホをハッキングして通話状態にしている!』


 グレンはスマホ画面の隅で慌てながら俺の質問に答える。


「お前は誰だ?」

『御託はいい。君は何をしたい?』


 放心状態になっている俺に冷めた声で手短に誰かがそう言う。


「俺は……」


 俺が何をしたいかって?

 そんなのはもう決まっている!


「俺は神崎を助けたい! その為だったら何だってする!」


 俺はスマホに向かって思いっきりそう叫んだ。


『……なるほど。それが君の答えか』


 誰かがそう言うと俺のスマホは通話画面からホーム画面に変わり、何かのアプリをダウンロードし始めた。


「これは……」

『今、俺はお前のスマホをハッキングして遠隔操作を行い、あるアプリをインストールしている。そのアプリのインストールが終わったら開くんだ』

「今はアプリで遊んでいる場合じゃ……」

『いいから僕の言う通りにしろ!』

「お、おう……」


 俺と電話越しの誰かの言い争いが終わると同時にアプリのインストールが終わった。

 そして、俺は言われた通りにすぐにそのアプリを開く。

 すると、このアプリのタイトルである英語の文字が浮かんできた。


「MONSTER UNITED?」


 アプリのタイトルを俺が読んでいるとタイトルの下にUNITE ONと書かれた文字が表示されていた。


『さぁ、早くUNITE ONの文字を押すんだ』


 俺は押すか押さないか迷っていた。

 正直、これを押しても何も変わらないような気がしていた。


『ヨウタ、ティラノが!』


 スマホ画面の隅に居たグレンがそう言うと俺はすぐに恐竜の方を見る。

 恐竜の鱗が神崎に向かって発射した。


「神崎ぃ!」


 もうやるしかない!

 決心した俺はUNITE ONの文字を押す。

 すると、突然、俺の体が光りだす。


「な、何だ!? 何が起きているんだ!?」


 俺は自分の体で何が起きているのかが分からなくて混乱する。


『ヨ、ヨウタ!? 俺の体が!?』


 俺のスマホを見るとグレンの体が見る見るうちに粒子へと変わり、消えていった。


「グレン!」


 グレンの名前を叫んだ後、俺は光に吞み込まれ、体が光の塊になっていた。


「もう駄目……」


 光の塊になった俺は神崎の諦めかけた声を聞き、すぐに助けに向かった。

 すると、さっきの足の怪我が嘘のように動けた。

 それだけではない。人間離れのスピードで恐竜の放った鱗を抜いていく。

 そして、神崎の元にたどり着き彼女をお姫様抱っこして助け出し家の近くまで駆けていった。


『UNITE ON! BURST DRAGON!』


 スマホの電子音声が聞こえてきた瞬間、俺の体に光が段々と消えていった。


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