第一章 未知との遭遇 5

 グレンのお願いを聞いた後、俺はその場で悩んでいた。

 もしこのお願いを聞いたら俺は何か巻き込まれるんじゃないのか?

 もしこのお願いを聞かなかったらこのドラゴンは最後の力を振り絞って暴れだすんじゃないか?

 まぁ、大人しそうなドラゴンだからそんな事はあり得ないと思うが……。

 あぁ、もうどうしたらいいんだ。


『もし……』


 俺がどうするか悩んでいるとスマホの中に居るグレンの声が聞こえてきた。


『……もし無理なら無理って言ってくれても構わない。俺は気にしないから』


 グレンはそう言いながら笑っていた。

 それを見た俺はグレンの傷ついた体を見る。

 グレンの傷口から多分だが体のデータが流れ出していた。

 けれど、このまま見捨てたらもう本当に消えそうな感じだった。

 そして、俺の中でグレンに対する不安が積もっていった。

 もし俺が来なかったらこのドラゴンは誰にも知られずに消えていったんじゃないのか?

 もし俺がこのドラゴンを見捨てたら俺以外の誰かに知られずに消えるんじゃないのか?

 もしこのドラゴンが消えたら探している仲間たちが泣くんじゃないのか?

 不安が積もったまま俺はグレンの笑ってる姿を見る。

 自分が消えそうなのに何でこのドラゴンは笑っていられるんだ?

 やっと助けが来たのに何でこのドラゴンはその助けを手放そうとしているんだ?

 そんなのは決まっている。俺を巻き込まないためだ。

 助けを呼んでいる時点で巻き込んでいるが俺の様子を見てこれ以上、巻き込むのはやめようと考えてしまったんだ。

 それ故にこのドラゴンは笑って誤魔化している。

 本当は助けてほしいはずのに……。

 もう笑うのだって辛いはずなのに……。

 ……あぁ、もうどうにでもなれ!


「……ったよ」

『え?』

「あぁ、もう分かったよ! お前の体が回復するまで俺のスマホの中に居ろよ! 但し、大人しくしていろよ!」


 俺は勢いよくそう叫んだ。

 俺が叫び終わるとグレンは最初、状況を把握できなかったのか何も反応しなかった。

 けれど、状況を段々と把握していくと嬉しそうにしていた。


『ありがとう! これで俺も助かるよ! 本当にありがとう!』


 グレンは何度もお礼を言われて俺は照れてスマホを持ってない左手で頬をかく。


『そう言えば名前を聞いてなかった。君の名前は?』

「俺の名前は天道寺 陽太。陽太でいい」

『ヨウタか。ヨウタ、しばらくよろしく』

「あぁ、よろしくな。グレン」


 お互いに挨拶をした所で俺は外に置いてきた神崎の事を思い出す。

 そろそろ外に置いてきた神崎の所に戻らないと心配するだろう。

 それに噂の恐竜の影の正体というのは多分、グレンの事だろう……。

 けれど、グレンの事は誰にも言わないようにしないとな……。

 後々、面倒な事になりそうだし……。

 神崎には何か適当な事を言って、グレンの事を内緒にしておこう。


『ヨウタ、どうした?』

「あ、いや、何でもない。さて、神崎の所に戻るか」

『カンザキ? 誰だ?』

「神崎は俺のクラスメイトだ。俺は神崎と一緒にある噂を確かめに来たんだ」

『ある噂?』

「お前の噂だよ。昨日、この近くで何かの叫び声と同時に停電があってその時に恐竜の影がこの森に逃げていくのを見たっていう噂を聞いたんだ。それを確かめるために俺たちはここまで来たんだ。しかし、お前がその恐竜の正体っていう事が分かってよかったよ」

『俺、地球に来てからはそこの古いパソコンから出ていないよ』

「……えっ?」


 グレンがそう答えると俺は一瞬、言葉を失った。


『さっきも言ったがこの傷だらけの体だから俺は助けを呼んでいたんだ。もし傷が治っていれば俺は宇宙の何処かに居る仲間たちを探しに行ってた』


 グレンが俺に淡々と話していく。

 噂の恐竜がグレンじゃない?

 じゃあ、まだ噂の恐竜はまだこの森の何処かに居るのか?

 もしその恐竜がまだこの森に居たとしたら外に居る神崎が危ないんじゃないのか?

 悪寒ともに俺の体から冷汗が流れていく。

 その時だった。


「きゃあああぁぁぁ!」


 外から女性の悲鳴が聞こえてきた。


『今の悲鳴は!?』

「あの声は……神崎!?」


 その悲鳴の声が神崎である事に気付いた俺は急いで外へと出ていくのであった。


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