『陽介とお客さん』

 かべけられた先日の写真をながめ、ようすけは満足そうにしていた。

「ほら、店開けるぞ」

「はーい!」

 元気に手を挙げ、エプロンを軽く結び直すと、ドアにけた看板を裏返した。

「どうぞー」

 にこにこと顔を出すと、親子連れと目が合った。少年の方は少しびっくりして、父親の後ろにかくれたが、無理に声をかけないことにして、店の中へと案内した。

 ちらちらと様子をうかがう少年に父親は苦笑いしていた。父親に向かって『あいさつに向かいますか?』と口パクで伝えると、『むすの勇気が出たら』とほほみながら返してくれた。

「……そうだ、アクセサリーとか見せたらどうかな」

ようすけが小さいころに好きだったほう少女アニメ。そのアクセサリーは今も大事にしている。きっと興味を持ってくれるはずだ。

「――うん、気になってるみたい」

 さり気なく近くのテーブルのコーヒーを届けてから、ふと気づいたようにしゃがんで目線を合わせてみた。

「あ、それかわいい……」

「でしょ!」

 少年はきんちようがほぐれたように、アクセサリーを手にとってながめる。父親に目を向けると、ほっとしたようにうなずいてくれた。うれしくなったようすけは、少年の手を取ってそれをにぎらせた。

「あげるよ」

「えっ……いいの?」

「――いいんですか?」

 思わず、父親もいつしよおどろいた。二人に、ようすけがおで返す。

「いいよ。私の『好き』を分かってくれたのが、うれしいから!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る