喫茶店フォレスタ《本編》

うらひと

楠 京子:『強がりの纏う衣装は憧れの人と並んで歩いていたくて』

「京子と家族」

 体育のバスケットボールの時間。残り10秒をタイマーが示す。

「京子、たのんだよ」

「オッケー! っ、ここかっ」

 パスを受け取った京子は、すでにガードのかたい前方を見て、スリーポイントシュートを放つ。

 れいな放物線をえがいたボールは、静かにネットをらした。

「うっそ、かんぺきすぎるだろ」

「さっすが京子!」

 男子と女子がそれにざわついていたところで、インターバルのブザーが鳴る。

「……っほんとお前、見た目も男子っぽいのに、もつたいねえわ」

 きゆうけいしにコート外へもどったところ、苦笑いで言うクラスメイトの男子に京子は、あせいていたタオルを放り、急にそのほおをつねった。

「ってててて!! な、何すんだ!」

 そうさけぶ男子をにらみつけた京子は、こう言い放った。

「男子になるつもりもねぇし、良いか悪いかを決めるのはオレ自身だっつーの!」

 体育館が静まりかえるが、男子がほうけてしまったので気まずい空気になった。

「お前、何でほおをつねったんだよ」

「は? グーパンじゃ加減できねーだろ」

 すいとうをがぶ飲みした後、周囲の空気に気づいた京子は「わり、気にすんな」とだけ告げた。

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