Real Friends

みずかん

Days.1 Reviving the memory


「かばんちゃん!」


サーバルちゃんの声が聞こえた。


君を助けられて良かった...


段々、ぼやける意識。


君のことは...


ブラックアウトした世界




忘れないよ。












ゆっくりと視界が開けた。


僕は柔らかい布団の上にいる。


息が苦しい。


何があったんだろう。


記憶が無い。


ここは、どこ。




「あっ!」


誰かの声が聞こえた。


しかし、それは誰のものでもない。


スタスタとその場から立ち去った。

慌てた様に。


状況が理解出来ない。

ぼんやりとした意識の中、

暗い部屋をオレンジ色の明るい光が照らしていた。


すると、一気に闇が消え去り、白色の眩しい光に包まれ目を瞑った。


「おい、君!」


その低い声で、目を何度かパチパチさせ、慣れさせた。


「これは奇跡だ!意識が戻ったと家族に伝えてくれ!」


白髪の人物がそう言った。


(家族...)


その言葉の意味が、わからなかった。


「君、自分の名前言えるかい?」


白髪の人物はそう尋ねた。


(僕の名前...、か...、か...)


「か...ば...」



弱々しく、思うように声が出せなかった。


「何したか覚えてるかい?」


(黒色のセルリアンに食べられたサーバルちゃんを助けた...)


何故か、そのセンテンスが口に出来なかった。


「まあ無理せんでいい。家族が来るまで待っていたまえ」


どのくらいしただろう。

唐突に大勢の人物が、同じ空間に入り込んできた。


「ミライ...?わかる?」


眼鏡を掛けた人物が僕の手を握った。


(ミライ...)


一瞬、頭に痛みを感じた。


「だれ・・・」


僕の口から出た言葉はそれだった。

その瞬間、僕の手を握っていた人物はハァッと息を飲み込んだ。


「お母さん、恐らく娘さんは記憶喪失の状態にあると思われます...。

長い植物状態にあった訳ですから...」


白髪の人物の低い声だ。


「お姉ちゃん!」


もう一人の声が聞こえた。


「カコ、お姉ちゃんはね...。

あなたの事覚えてないみたい...」


僕の手を握っている...、お母さんと呼ばれた人物がそう言った。


「今はまだ、意識が戻って本人も混乱

してるでしょう。明日、順番に話をしてあげてください...。私らは今後について色々話し合わなければ」


「そうですね...。でも、意識が戻って良かった...」


お母さんはすすり泣く声でそう言った。


僕は一体何がどうなっているのか、

混沌しか無かった。






朝が来た。

周りの景色もハッキリしてきた。


白い壁、白い天井、何もかも真っ白な

空間だった。


ちょうど僕が目覚めるのを見計らっていたかのように、誰かが入ってきた。


「お姉ちゃん...」


黒髪で...、例えるなら、アライさんに似ている。


「あっ、でも、わかんないんだよね...


寂しそうな声を出した。


「あたし、川場カコ。ミライお姉ちゃんの妹だよ。今は17歳。

お姉ちゃんは、川場ミライ、22歳だよ。えっと...」


何から話せばいいのかわからず戸惑った様子だった。

それを見ていた僕は口を開けた。


「何があったの...」


小さい声だったが、カコにはちゃんと聞こえたようだ。


「お姉ちゃんね、今年の4月にね、事故にあったんだ」


カコはそう口にした。

そしてその時の状況をゆっくりと話した。


「お姉ちゃんは短大を卒業して、

夢だった獣医になれる事が決まったんだよ。その入社式に行く途中の事だったんだ。国道の道路にいた1匹の猫を見かけたお姉ちゃんは、助けようとして...

信号無視した自動車に跳ねられたんだよ

…、奇跡的にたまたまお姉ちゃんの持ってた鞄が頭を守ってくれたから大事に至らなかったんだけど...、意識を失ったままで...」


そうなんだと、納得行くことが出来なかった。

けど、自分の中でもひとつずつパズルのピースを埋めていく作業をしていた。

話を聞いている最中に、パークの記憶も呼び戻されてきた。


僕がサーバルちゃんと出会った理由

それは僕が“猫”を助けたから。


そして、“かばん”という名前

それは僕の持っていた鞄と、“川場”という名が混ざりあったもの。


最後に、ラッキーさんが言っていた

“ミライさん”。アレは僕の本当の名前と、あの眼鏡は....、昨日会った、

お母さんとそっくり。


僕はその時ハッとした。

“ジャパリパーク”という空間は、

僕の想像で作られた物だということ。


「お、お姉ちゃん?何か思い出した?」


それを意識するのと同時にこの世界の記憶も戻りかけた。


「お母さんは...、川場...」


「お母さんの名前?川場星子かわばせいこだよ」


「お父さんは...」


「お父さん...、別れちゃったんだ。

お姉ちゃんが高校生の時」


「そうだったっけ...」


僕はいつの間にかカコと普通に会話出来るようになっていた。


「友達は...」


「お姉ちゃんの友達...、ほら、高校の時いつも仲良くしてた子!

えっと、確か...

新井さんと笛音さん!」


思い出した。


新井瑞希あらい みずき

笛音空香ふえね くうか...」


「すごい...!お姉ちゃんすごいよ!

昨日目覚めたばっかりなのに!」


あの“パーク”を創り出したのが自分なら

現実の世界の事と多少リンクしている

ハズだ。


思い出すままに言葉を発した。


「図書委員の...木葉このはさんと鷲津わしづさん、

それから、美術部で漫画家になるとか言ってた大上おおかみさん...、

僕の好きだった樺田かばた先生...」


「お姉ちゃん...、高校の時だけ良く覚えてるね」


カコの言葉で再び、ハッとした。

“ジャパリパーク”は、僕の高校の思い出が大きく反映されている。


その事に気が付いた。


しかし、セルリアンは...


「お父さんについて教えて」


僕はカコに落ち着いて尋ねた。


川場利治かわば としはる

今は、岩瀬 利治になってる。」


「なんで別れたの」


カコは重い息を吐いた。


「家庭内暴力...、お父さんはお姉ちゃん高校2年の冬ぐらいからよく、

お母さんに暴力を振るってた。

あたしにも、偶に殴られたりとかして...、お姉ちゃんはその度にお父さんに反論して、結局誰よりも傷を負ってた...」


(セルリアンは...、お父さんだったんだ)


「でも、そんな強いのに立ち向かうお姉ちゃん、カッコよかったよ」


カコは初めて僕に笑顔を見せた。


「それで思い出した。

お姉ちゃんが小学生の時に、紙ヒコーキ作ってさ、言ってたよね。この世界は広いって。当たり前のことだけど、特別な意味があるようにあたしは思ったなぁ」


そう言った。


「色々思い出して疲れちゃったな...」


「お姉ちゃん病み上がりなんだから、

無茶しないでよ」


僕は“高校時代”と“ジャパリパーク”に

大きな接点があるようで気になった。


何故か僕が僕自身の事をよく知る必要性があると感じた。




カコは家に帰った。


僕は、この世界で目が覚めてから初めて眠りに付いた。





『カバン』


その機械的な声はラッキーさんだ。


『ゲンジツ ト パーク ハ ドッチガスキ?』


僕はわからないと言おうとしたが言葉が出なかった。

なんとかしてそれを伝えようとした。


『キミガ、コノセカイニ、イヨウトオモエバ、オモウホド、パークニハ、モドレナイヨ。テミジカニ、キメタホウガイイ。サーバル ガ マッテルヨ...』


(サーバル...ちゃん...)


僕は、現実世界に居ながら、パークを

創り出していた。幸せな時間に、ずっと

身を逃げ隠すように。


僕は...、僕は...


現実の僕と、パークの僕が葛藤していた。







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