未来はきっと赤い実をつける

カゲトモ

1ページ

「あらスカイさん、こんにちは」

“苺大福”の美味しそうな看板の裏から、人のいい笑顔で挨拶をしてくれたのは老舗和菓子屋の女将だ。今日も淑やかな着物姿が良く似合う。

「こんにちは」

 老舗と言ってもこの“京谷和菓子店”の店内は昔ながらの和菓子屋、ではなく現代的でスタイリッシ。金とえんじを主に使った内装は、上品でどこか日本庭園のようなワビサビを感じる。今の代に変わってから改装したらしいけれど、内装考えた人のセンスが凄い。もし家とか建てる時にはデザインしてほしいくらい。予定はないけど。

「いいお天気になりましたね」

「そうですね。いい天気ですけど、夏みたいに暑くなりましたね」

「そうねぇ。まだ朝晩は寒いから日中との温度差が激しくて困るわね。風邪とか引かないようにしてね」

「ありがとうございます。女将さんも」

「あらあら、ありがとう」

 にっこりと微笑む表情は、店内に彩られた桜の花のように柔らかで優しい気持ちになれる。だからこそ、ここのお菓子は美味しいのだろう。

「こんなに天気が良いと、桜もしっかり開きそうね。もう結構咲いていたけれど、見ごろは週末くらいかしら」

「そうですね。週末も天気が良いらしいのできっと河川敷の公園辺りはお花見の方で一杯になるんじゃないでしょうか」

 商店街から少し行ったところに広めの河川敷があって、川沿いに桜の並木が植えられている。祭りのときの提灯なんかもぶら下げられていて、そこはお花見ムード全開だ。

地面一体が芝部になっているから、子供連れの家族とかカップルとかも多くて、バドミントンしたりキャッチボールしたり、日向ぼっこしたりとワイワイ楽しめる場所だ。

夜は特別にライトアップされたりするわけじゃないけど、缶ビール片手に仕事帰りのサラリーマンたちが街灯で照らされた夜桜を見に来ていたりするし。きっと葉桜になって桜が落ちるまでみんな楽しむのだろう。もちろん、俺もだけど。

「もうお花見には行ったの?」

「はい、昨日。この辺じゃないんですけど」

「わぁいいわねぇ。昨日も暑かったから、お酒美味しかったでしょう?」

「もうすんごく」

 酒が美味い+つまみが美味い+トークが楽しい+日差しが気持ちいい、で気づいたらレジャーシートの上で一眠りしていたくらいだ。いやー、あの外で寝る感じ、すっごく気持ちいいんだよな。

「羨ましいわぁ」

「きっともう少し桜は咲いていてくれるでしょうから、今度のお休みにでも是非」

「うーん、そうしたいのは山々なんだけどね」

 さっきまで楽しそうにニコニコしていたのに、そう口にした女将さんの表情は天気と対照的に曇って行く。もしかして?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る