ソーイングカウンタ
アーモンド
痛=傷
服は傷付けば縫って、それでお終い。
人の心も、そんなものだと思っていた。
でもその考えはちょっと違ったみたいだ。
私は、その傷は時間が経てば治るものだと思い込んでいたから、何も気にしないで人を傷付けていた。
傷付け過ぎてしまった。
私は今日も人を傷付けている。
だがいつもと違うのは、これまでと違うのは、それが【早く傷付ける側を辞めるため】だという事だった。
それはつい1週間前の事だった。
夢の中で私は、何故かセーラー服姿で目が覚めた。かたわらには何故か、スーツをきっちり着こなした親父がいた。
「そのカウンタ、気に入って頂けましたか」
左手首をよく見ると、『零』と
「なにこれ」
「ソーイングカウンタ。それがあればあなたは、いつまでも傷付ける側でいられる」
「なにそれ、くだらないの」
「試供品ですから、お代は結構です。
ああそう、そのカウンタの数字、換金出来ます。傷付けた分、あなたはリッチ」
「……なにそれ、マジヤバいじゃん」
そこで目が覚めた。今度はスーツの親父はいなくて、私はパジャマ姿で目覚めた。
ただ……ソーイングカウンタとかいう痣は、左手首にしっかり刻まれたままだった。
それから私はまた人を傷付けた。
1日に3桁くらいなら楽勝だったけど、それじゃあ小学生のお小遣いにも敵わない、高校生の私からすれば
「……もっと傷付けなきゃ」
私はこうして、堕ちた。
気がつけば自己満足だけじゃ済まなくなって、弟や親、仲の良かった友達までも傷付ける様になってしまった。
そうこうしているうちに5日が経った。
夢の中で、またあのスーツ親父が現れた。
「……ねぇ、このカウンタもう取ってよ。
このままじゃ、もう戻れなくなっちゃう」
「何言ってるんです、それはあなたの望まれた事じゃないですか。
――――そんなに辞めたいですか」
「もち。こんなカウンタで小遣い稼ぎなんてしたくない!それならスマホででも出来るし、バイトとかだって!!」
「そうですか、残念。
それでは、カウンタを最大数値まで貯めて下さい。そうすれば、その試供品カウンタは取って差し上げますので」
こうして私は、覚めない悪夢へ浸かり始めた。傷付けたくもない人を傷付けるために、自分まで傷付いた。
そこでようやく気が付いた。
私のやっていた事が、どれほどひどい事なのか、って事に。
そして、『1度傷付けた人は再度カウントされない』というシステムのせいで、数字を貯めるのはかなりの苦行となっていた。
努力の甲斐あってカウンタが残り1になった日の夜、あまりの疲労で私は家に帰るなり熟睡してしまった。
そしてまた夢の中のスーツ親父が、笑った。
「約束です。ソーイングカウンタを取って差し上げます」
「えっ、でもまだ数字残って――――」
「何言ってるんです?
あなたが傷付けば『零』になるじゃないですか。さあ、左手を差し出して下さいな」
「やっ……止めてッッ!!」
叫んだのが少し遅かった。
私は悪夢から覚めなかったらしい。
これは罰だ。
人を傷付けた、その報復だったのだ。
私はそして、スーツを着る。
「そのカウンタ、気に入って頂けましたか」
ソーイングカウンタ アーモンド @armond-tree
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