シー・シャル・ビー・リリースト

転ねこ

千紗

 小枝子が、逝ってしまった。

 たった一人で。

 最期の言葉も残さずに。


 ……違う。

 私があの時、小枝子からの電話に出られなかったから、言葉を残したくても残すことができなかったんだ……。


 もう長いこと机の上に飾っている、小枝子と私のツーショット写真は、二人とも一番気に入っている一枚だ。

 高校三年生の文化祭が終わった後の教室で、クラスメイトが撮ってくれた写真。

 クラスのみんなが一つになって、最後の文化祭を最高の形でやり遂げることができた。その達成感と高揚感につつまれていたことを、今でも鮮やかに思い出すことができる。

 今よりもふっくらとした、あどけない顔立ちの二人が、上気した頬を輝かせ、しあわせそうな笑顔を振りまいている。


「……小枝子。あの電話で、私に何を伝えたかったの?」

 写真の中の小枝子に話しかけても、答えは返ってこない。

 彼女らしい、やわらかな笑顔で、私を見つめ返すだけ。

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