開戦前 後編
14
その夜。
日の出とともに、おそらくパーク中の全ての黒セルリアンは活動を開始する。
日中のうちに
最後の平穏。
旅立ちの前夜。
出発はあの時と同じ、遊園地の傍にある港『日の出港』。
サーバルはかつてかばんを見送った場所に座りながら、何をするでもなく、その地平線をただ眺めていた。
「ここにいたのですか。あまり無理をすると明日の出発に響くですよ」
「大丈夫、夜行性だから」
「まぁ、我々に夜に休めというのも少し無理がありますね」
朝の時とは違い、横に並ぶように博士は座った。
潮風が二人を撫でる。帽子についている羽根が揺れている。
「日が昇れば、我々はここを
おそらく、博士なりの優しさなのだろう。ジャパリパークを出たらもう後戻りは出来ない。もしかしたら、ヒトのちほーで終わってしまうかもしれない。
しかし、今のサーバルにそんな心配は無用だった。
危険なんて最初から分かっている。
これから歩む道が
だから、自信が満ちた声でこう言えるのだ。
「わたしは大丈夫だよ。絶対かばんちゃんを止めるの。止めて、お
そう言い切るサーバルだったが、博士には少し無理をしているように見えた。
──確かに、これ以上の深追いはしなくてもいいかもしれない。自分の役割はサーバルを立ち直らせること。それが終わったのなら、後はサーバルとかばんの問題だ。
博士はそう考え、音もなく飛び始める。
「そうですか。ならいいのです。少しでも休息を取っておくといいですよ」
「うん、ありがとう博士」
そう返すと博士は去っていった。
少しでも休息を取っておけ。そう言われたがサーバルにその必要はない。取るべき休息は既に取った。
ゆっくりと、サーバルは立ち上がる。
地平線の向こうで、
覚悟は決まった。目的も
かばんの宣戦布告から
その拳を強く握り、向こう側にいるかばんへ想いを
パークは光に包まれた。
15
夜が明ける。それがセルリアンにとっての開戦の合図だった。
咆哮が響き渡る。セルリアンはその本能に従い、フレンズの核であるサンドスターを食べるために
その一方、港にフレンズは揃っていた。
「これが我々が設計した空を飛ぶバスなのです」
ジャパリバスに平原で使った風船のような大きい球体が繋がれており、後方には以前よりも巨大なプロペラが付けられている。
博士
「よくこんなの作れたねー」
「こう、サンドスターとかを使ってパークの残されたアトラクションの
「なのです」
「えっ……なんかすんごい
「船と同じみたいだけどこれじゃ遅いんじゃないの?」
「そこら辺は改良済みなのです。電池をあれこれして、ヘリには敵わないもののバスと同じ以上のスピードで飛べるのですよ」
「すっごーい!」
「当然なのです。我々は賢いので」
一頻り感心すると、博士と助手が数量の奇妙な機械を持っていることに気付いた。それをフレンズ達に配っていき、最後にサーバルに渡される。
「それはヒトが作った〝むせんき〟というものです。これを使えば離れていても話すことが出来る優れものなのです。こちらも距離や使える時間に関して改良済みですから最大一週間、このパーク程度の範囲であれば繋がります。……ただ数が足りず、ヘラジカとライオン、アライグマとフェネックは二人で一つずつ使うのです。代わりは無いので大切に使うのですよ」
各フレンズへ簡単に使い方を説明し、二人一組の無線機はそれぞれライオンとフェネックが持つことになった。アライグマは自分が持ちたいと少し不満げだったが、壊した時どうするのというフェネックの指摘にぐうの音も出ず若干落ち込んでいる。
ふと博士を見ると、分厚い本を持っていることに気付く。
「博士、その大きい本はなに?」
「これは文字を読むための本なのです。我々の知識ではヒトの文字を全て読めるわけではないので、これを使って解読するのです」
要は読みやすくするための道具だと助手から補足が入る。
ジャパリまん。空を飛ぶバス。通信機器。
旅立ちの準備は整った。
多くのセルリアンを誘導するのにも限界がある。これ以上時間を
それぞれの想いを胸に、七人のフレンズはバスに乗り込む。
「助手、留守を任せるのです」
「心配ご無用です。私もこの島の長なので」
島に統率者がいなければいざという時の対応が
「大将……ご健闘を祈ります」
「あぁ、私が帰ってくるまでここを頼むぞ」
ライオンの部下、オーロックスはその言葉に大きく頷いた。
「ヘラジカ様!」
「うむ、行ってくるぞ!」
ヘラジカの、その短くとも真っ直ぐな言葉にシロサイ達から気合の入った雄叫びが上がる。
「必ず帰ってきてください。ぼくも頑張りますから」
「……無茶はするなよ」
普段の飽きっぽいスナネコからは考えられないような強い意志が、その言葉に込もっているような気がした。
「よーし! アライさんにお任せなのだーー!!」
「頑張っていこー」
先程の
「じゃあ、行ってくるね! みんな!」
サーバルの言葉とともに、アライグマとフェネックがバスのペダルを漕ぎ始め、博士とライオンが港とバスを繋ぐ縄を切る。
ジャパリパークから離れた後でも、残されたフレンズがこちらに向けて激励を送っていた。
やがて、パークが見えなくなった。振り続けていた腕を下ろし、視線を後方から前方へ向ける。
この先に、かばんがいる。
ゆっくりと息を吸い、そして吐く。
いざ、ヒトが住まう遠方の地へ――。
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