ヒトの業

白狐

序章

プロローグ




『「女王」トノ接続ヲ確認。個体〝ラッキービースト〟カラ全サーバーヘ干渉ヲ開始。…………成功。全システムオールグリーン』


 ボス、あるいはラッキービーストと呼ばれる個体から無機質な声が響く。ただ淡々と、その機械はプログラムを進めていく。

 顔を出す太陽が遊園地を眩しく照らす。

 寒気をもよおす気持ち悪い風が辺りを吹き抜ける。

 そこには大勢のフレンズが揃っていた。あの時、かばんを救い出し、全員で『無事セルリアン倒せたandかばん何の動物かわかっておめでとうの会』を開いた時と同じように。

 その時と明らかに違うのは、友としてではなく、止めなければいけない脅威としてそのフレンズが目の前に立っているということ。


「やっとヒトが発展させたネットワークも、セルリアンも掌握出来ましたか。……よし、ちゃんと思い通りに動きますね」


 違う。同じことのほうが少ない。共通点はフレンズが集まっている点しかない。

 誰も笑っていない。

 誰も楽しんでいない。

 ただ一人、背後に数多あまたのセルリアンを従えるかばんを除いて。


「何を、するつもりなのですか……。ヒトの築いた叡智えいちと、セルリアンを利用して……」


 震える声で、絞り出すように博士が問いかける。

 対して、かばんは笑ったままだった。帽子が飛ばされ、表情が隠れない彼女は自分の知ってる無邪気な笑顔ではなく、ただ背筋が凍るような凶悪さを孕んでいた。


「ヒトの罪咎ざいきゅうを知った。フレンズの技も身に付け、セルリアンも従えた。これで、僕はようやく目的のために動くことが出来る」


 あの時、生まれたばかりで何も知らなかった彼女に教えた自分のように両手を広げる。

 そして、その場にいる全員に宣言した。




「──僕はこの世界の王になる」




 何故、こんな事になってしまったのか。

 何故、こうなる前に気付けなかったのか。

 後悔と疑問だけがサーバルの頭を掻き回す。

 だが、いくら嘆いた所で時間が巻き戻ることはない

 そんな彼女の目の前に、パサリと飛ばされたかばんの帽子が着地する。






 サーバルは想起そうきする。その発端を。

 それは、ヒトのちほーを見つけたところから始まった。

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