第3話
翌朝、テレビは昨日の黒い怪人のことでいっぱいだった。
なんでも、あのゲームセンターに来る前に負傷者が十数名出ていたらしく、それらすべてが自衛隊員や特殊部隊の人間だったらしく、朝からもっと軍備を強化しなければならないのではないかと、偉いおじさん達が討論していた。
「たく……替わってくれるなら、替わってくれよ……」
純はテレビを見ながらそう呟き、朝食の準備を済ませて、席に着こうとする。
しかし、テーブルには既に誰かが座っていた。
「うーん、男子高校生なのに料理スキルが高いって……どっかのラブコメの主人公みたいだね」
「な・ん・で! 朝からお前がいるんだよ!!」
テーブルに座って居たのは、神様だった。
いつも通りの半透明で、テーブルの純が作った朝ご飯を食べていた。
「いやー、一人で寂しいとおもってさ~。あ、コーヒー頂戴」
「帰れ、なんで朝からお前の分の朝飯まで用意しなきゃいけねーんだよ!」
「ひどいなぁ~君を心配して来てあげたのに」
「嘘つけ、飯をたかりに来ただけだろ!」
純は以前に神様に日本食を仕方なく振る舞ったことがあった。
なんでも神様の世界には、食欲という概念が無いらしく、食べることは出来るが、どうしても食べなければいけないものではないため、神様達の世界の食べ物と呼ばれるものは、基本的に味すらないらしい。
しかし、この神様は純によって食べることの喜びを知ってしまい、ちょくちょく来ては純に食事をごちそうになっているのだった。
「あ~本当においしいなぁ~墜ちちゃいそう~」
「既に墜ちてるみたいなもんだろお前は……」
ため息を吐きながら、もう一枚焼いたトーストを食べる純。
神様と出会ってからは、こうして神様と食事を取ることも増えた。
「しかし、IDもいい加減諦めねーかな」
「お、なんだい? 世界の平和について考えているのかい?」
「いや、世界なんてどうでも良いから、お前ともう顔を合わせたくない」
「酷いな君は……」
神様の相手をし、純は学校に行く支度を始める。
学校からの連絡で、昨日の怪人騒ぎの影響で、本日の授業は午前中だけ。
学校では、あまり目立たない普通の男子で居る事を心がけている純。
朝から神様と会話しているなんて、学校では口が裂けても言えない。
「おはよー」
「お! 純! お前昨日大丈夫だったか? シェルターにはいつまで経っても来ねーし」
「あぁ、俺は別のシェルターに居たからな、お前も無事だったんだな……残念だ」
「おい、どういう意味だ」
竜也と昨日の話をしながら、純は席に座る。
話しをするのと同時に、弥生の事を考える純。
昨日の事もあったので、純は弥生を心配しており、無事かどうか気になっていた。
「竜也、お前今日、姫島さん見たか?」
「ん? いや見てないけど? なんだ、昨日話し掛けられなかったから、話し掛けに行くのか?」
「いや、昨日姫島さんもゲーセンに居たから、無事かなって……」
「なら、本人に直接聞いてみろよ。昼休みにでも付いてってやるから」
「いや、俺は無事なあの人の姿をみられればそれで……」
「ばっちりカメラを構えながら言われると、犯罪臭がするな……」
純と弥生のクラスは別だった。
その為、あまり接点もなく、純は時々廊下で見かける彼女に見とれるだけだった。
「それはそれとして、昨日のおかげで今日早く帰れるってのに、ゲーセンはめちゃくちゃだからなぁ~、今日はどこ行くよ?」
「なんで放課後にお前とどこか行くのが決定してんだよ……」
「どうせ暇だろ? あ! 久しぶりにお前の家行って良いか?」
「来るなって言ってもどうせ来るだろ?」
そんな話しをしている最中、純の頭の中に声が聞こえて来た。
『あー、あー、聞こえてる? また出たよ~、今君の学校に向かって進行中だね。じゃぁいつも通り行ってみようか』
声の主は神様だった。
こうやって神様は純に怪人の出現を知らせており、純はこの声を聞いて現場に向かうのが一連の流れだ。
しかし、怪人は時間を選んで現れてはくれない為、純はこの声を聞くと必ず肩を落としてため息を吐いていた。
『今は勘弁しろ! 授業始まるんだぞ!』
純は神様に念じて返事を返す。
この行為を念話(ねんわ)と言うらしく、何かあった時のために誰にもバレることなく連絡が取れるようにと、神様様が純に与えた力だ。
『君は授業と世界、どっちが大切なんだ!』
『こういう時だけらしい事をいうんじゃない! 自衛隊とか警察はどうしたよ!』
『すでに負傷者が……6人、内3人が重傷だね』
『あぁー!! クソ、行けば良いんだろ!!』
純は突然走り出し、教室を走って出て行く。
突然の純の行動に、竜也は驚き後ろから叫ぶ。
「おい! 純、授業始まるぞ!!」
「トイレだ!」
「…漏れそうなのか?」
竜也はそんな事を考えながら、純の後ろ姿を眺めていた。
一方で純は学校の裏手にやって来ていた。
こんな真っ昼間に高校生が歩いて居るのは、いささか目立つので純はここで戦う姿に変わってから、怪人のところに、向かっていた。
「ねぇ~、きょうも言わないの~」
「だから、急に出てくるな!」
誰も居ない事を確認していると、純の目の前に突然神様が姿を現す。
「折角僕が戦闘用の姿を用意したのに、君は一回も変身! って言ってくれないじゃないか! それでもヒーローか!」
「今はんな事言ってる場合じゃねーだろ!」
「だから、僕は考えた!」
「聞けよ!!」
「これからの装展には、かけ声が必要になるようにしました」
「この緊急時に何くだらない改造してるんだよ! 良いからさっさと行くぞ」
そう言って純は宝石を投げる、しかしいつものように光らない。
「おい、まさか……」
嫌な予感がしながら、純は神様の方を見る。
すると神様はどこかわくわくした表情で、純に言う。
「もう改造済みさ!」
「ぶっ殺すぞ! 急げって言ったのはお前だろ! なに面倒臭いことしてんだよ!」
「面倒じゃないさ! 装展する際のワードを叫べば、直ぐに装展出来るんだよ? 投げるよりも楽さ」
「あぁ! 時間が無いんだ! なんて言えば良いんだよ!」
「ふっふっふ、それはもちろんへんし……」
「変身!」
どうせ神様の事だから「変身」と叫べば大丈夫だと思い、神様が言い終わる前に叫ぶ純だったが、やっぱり何も起こらなかった。
「変身……にしようと思ったけど、マンネリ過ぎてつまらないから、装展にしたんだよ」
「ややこしい言い方をするな! 恥ずかしいだろ!!」
純は顔を真っ赤にして声を上げる。
そんな純を見ながら、神様は話しを淡々と続ける。
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