ずっと夢見てた


 大切なことは全部諦めてきた。働け。そして稼げ。そんな時代にどうして恋を語ることができようか。老いてしまったことなら知っている。だが時々どうしてか、初恋をしていたあの時に何度も戻る。

 この手は、シワクチャなのに。

 あの人は、あの時のままで微笑んでいる。だから私は、今日こそ言ったのだ。あなたが、貴方のことが――



 複雑な気持ちでその姿を見ていた。厳しくて強かったオヤジ。介護士さんを初恋の相手と重ねて、まるで少年のように笑うオヤジに戸惑った。介護士さんは困っただろうが、傷つけまいと振る舞ってくれて、本当に感謝で。

 夢、叶えたんだよな?

 その笑顔と――真反対にその体が冷たくなっていくのがウソみたいで。



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第58回Twitter300字SS参加作品

テーマ「夢」でした。

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