告白ロールプレイング
「あのさ、告白のロールプレイングに付き合ってくれない?」
「は?」
家飲みをしながら、同僚はそんなことを言ってくる。
「告白って、どう言っていいか正直わからないんだよね」
こいつは……。入社の時から私が気になっている事を知っていて言ってるのか?
「女子はどんな風に言ってもらったら嬉しい?」
「そんなの人によるに決まってるじゃない」
「じゃあ、槙本は?」
「え……」
言えるわけがない。何度、目の前の鈍感野郎にその言葉を投げようと思っているんだ?
「好きだよ」
同僚は耳元で囁く。背中がぞくっとする。言われたかった言葉なのに、と思う。少しおしゃれをしたり、ご飯に誘ったり、休日を一緒に過ごしたり、買い物に出たり。それなのにコイツは少しも気づきもしない。
「付き合ってください」
同僚は続ける。
「でも、付き合ってくださいって、あんまり好きじゃないんだよなぁ」
とハイボールに口をつけて。
「槙本ならどう言う?」
「す……す」
「え?」
「ずっと、好きだったんだよ、バカヤロー!」
煽られ、衝動に任せて言ってしまって――固まる。
こ、これはロールプレイングだ。何を言ってしまってるの? アルコールの酔いとはまるっきり別の意味の熱さが体中を駆け巡る。
「うん、俺も」
とニッコリ同僚は笑――う?
「槙本、好きだよ」
ズルイ笑みを浮かべながら。こいつはいつもそうだ。飄々として。でも仕事で失敗した私に、さり気なく手を差し伸べてくれて。
ズルイ、と思う。
「女子に誘導尋問で言わせるなんてサイテーだ」
「散々言っても気付かない槙本が悪いんだけど?」
「な、お前、そんな事を一言も――」
と反論する暇もなく、彼は私を抱きしめる。バカ――と、こんな時でも悪態を吐く私は、本当に素直じゃない。
「槙本のバカは、好きと同義語だよね」
「そんなわけあるか」
「じゃあ、好きって言ってよ」
私がどれだけ好きなのか、言葉なんかで伝わるか。
だから私は、今まで伝えたくて伝えたくて仕方がなかった言葉を、唇に全てこめて――。
________________
ブログに書いていた過去作。
「告白」で書きたくなって、タラリンと書いてみました。と、ブログには書いていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます