淡い光の下で、初めて境界線は崩れ落ちる。月は満たされ、儚い灯りに照らされて、この世界は初めて孤独でないことを知る。


 笛が物悲しく、泣く。その音色に身を任せながら、彼女は盃に手を取り小さく舞うのだ。


「悪くはないな、この国の儀式は」


 彼女は僕の首に唇を寄せる。陶磁器のように白く、冷たい手に添えられながら。


「だが酒より、お前がいい」


 この神社には吸血鬼が祀られている。


「血が目的のくせに」


 会いたかったはずなのについ言ってしまう。


「目的なら、お前だ」


 酔った勢いのくせにと、悪態を返しながら。首に甘く食い込む牙が甘美だ。それ以上に言葉が甘ったるい。


 また人身御供の僕は生かされて――

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